どうしようもなかった

 あなたは遠くへ行ってしまうから、もう会えなくて、あなたは遠くへ行ってしまうから、もう私たちは天気の話もできなくなってしまう。とても寂しくて、どうしようもないくらいに悲しい。眉毛を描きながらふと泣いて、家を出て働いて、戻って鍵を開けて入って閉めて、靴を脱いだ瞬間にまた泣いてしまうくらい、どうしようもない。今日は寒かったよ。とは言えても、今日は寒かったね。とは言えない。そんなのどうしたらいいのかわからなくて怖くて仕方がない。

あなたが私の世界観や価値観を否定したことも、あなたと離れてしまうことと同じくらいに悲しくて、泣き尽くしても癒えないくらい、悔しい。もういっそ憎んでしまっても、憎んでいるうちはまた会いたいと思ってしまうから、胸が重くて辛いのに、上手に怒ることもできない。

 あなたからは今日も連絡が来ない。私からは今日も連絡ができない。未来の話の前にちゃんと今、今の話をしたいけれど、そんなことも私はあなたにはやっぱり言えなくて、その言い訳みたいに、ひとりの家で不恰好に泣いている。髪も乾かさずに枕がわりのクッションを濡らして、私に押しつぶされているこのソファーベッドがあなたならいいのに。とか思うだけ。いつも勝手に押しつぶされているのは私。誰も悪くないことなんてわかっている。だから許したかったし、あなたには許してもらえるかもと期待していたのに、私は昨日もまだ許されないまま生きていて、悔いのない人生を送っているのに悔しくて悔しくて堪らない。私のことを許せないなら最初から拾ってほしくなんてなかった。離れるためなら、くっついていても仕方がなかった。寒さを知るために抱き合うなら、温もりだって要らなかったし、私が私のままでいてはダメなら、私に近づかないでほしかった。

今日も会いたくて、寂しくて、嫌いだ。今日も会えなくて、何も言えなくて、寒い。引き止めるほどの強情さがあればよかったのかな。全然離れたくなんてない。

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