キンヨル

 私の頭の中で勝手に生まれて死んでいった物語たちは、墓場も持たないままに世界のどこかを未ださまよっている。例の美容師も売れないバンドマンも生きているだけで悲しい少女も、ちゃんと愛していたけれど、私は私のことで精一杯だから、いつの間にか失くしてしまった。夢の中の幼い頃の記憶みたいに、初めから存在しなかったみたいに、もしくはずっと消えないように、忘れてしまっても忘れられないままである。行きたかった病院にはまた行けなくて、寝て起きたらまた夜とは違う淋しさとお友だちだ。だから泣かないで。そう、慰められてもみたかった。

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