泡沫詩

 誰かの胸が剥がれ落ちた夜に私は歌を歌った。それが一番馬鹿らしくて誇らしいと思ったから。だから歌を歌った。誰にも届かなくていい。ここに私がいて声が音になって歌になればそれでいい。歌は空気を伝う。また吸って吐くとそれは明日になる。昨日の歌は今日の私になった。だから泣いてなんていない。今日も世界は美しかったね。

 無様な著名人も、苦しいだけの病人も、死にたいだけの若者も。すべてが醜くて美しかったね。そんな歌を歌った。生きていたことが美しかった。嘘も本当も下らないから意味になった。真実はいつまでも掴めないから憧れた。欲があるから今日も死にたくなったんだよ。そう言って、目を閉じる。今夜もまた、歯が抜け落ちる夢を見るのかもしれない。それでも明日も歌おうと、心に決めて、口を開ける。

 私に明日がなくても世界が醜いまんまでも結局死にたいだけの日々でも、儚いから守っていたい。そんなこじつけで生きていたい。何の意味もなく歌っていたい。そんな生活を鼻で笑い明かしたい。だってもう、やりきれないでしょ?

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