最近の記事

【 文学トリマー 】#毎週ショートショートnote

 今日も出版社にプロットを持って行ったが、コテンパンに打ちのめされた。部屋でゴロゴロとしていると、女性が訪ねてきた。 「草刈先生ですか? 私、草原出版社で編集をしております草原(クサハラ)と申します。いきなりですが、ベストセラー作家になりませんか?」 草原さんは説明の後、僕の手に小さな本と小さなトリマーを載せた。  その本を開くと次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。 その草原には長い鉛筆が生え、文字の花が咲いていた。 右手に持っていたトリマーがムクムクと大きくなり、ブルブ

    • 【 記憶冷凍 】#毎週ショートショートnote

       「ねぇ、この間、私、一度死んで生き返ってきたじゃない。実はその時、チビ(犬)に会ってね。不思議な事が出来るようになっていたんだよね」 「それって、一度死ぬと不思議な力がついてくる、みたいな」 「そうそう、そんな感じ」 「で、どんな事があったの?」 「気が付いたら、大河が滝になって下へ流れ落ちている地の果てみたいな所に立っていたのね。 そうしたら、下から昔、家にいたチビが雲に乗って上がってきたの。 チビは神の眷族で、神に頼まれ現世にいたと言うのね」 「懐かしい。それで、どうし

      • 【 春ギター 】#毎週ショートショートnote

         「来年も大きな蕾が出来るといいな」 「そうだね。楽しみだね」 そんな話をしながら、娘の桜は眠りについた。 娘は何故か、秋の終わりに眠りにつく。 私はその間、カプセル内の調整パネルを毎日、同じ時間に見に行く。 娘は、スヤスヤと寝ている。声は聞こえているので、毎日の出来事を話している。  「母、もうすぐ姉が目を覚ます」 「そうなの?! 準備しなくちゃね」  その日の朝、私は早起きをしてお弁当を作り、家族を起こし、娘が寝ているカプセルの解除ボタンを押す。  裏山に登ると、頂上の真

        • 【 錦鯉釣る雲 】#毎週ショートショートnote

           ある日、空に大きな白い雲が現われた。 その雲から白い糸が垂れてきた。 庭園の池にポチャンと落ちた。 暫くたつと、ゆっくりと糸が上がっていった。 その先には、虹色の錦鯉が何匹も釣られていた。 雲は錦鯉を釣ると、南へ去って行った。 すぐに戻ってきて、その小さな村に小判が降った。 半年もすると、皆、丸々と太ってきた。 しかし長は、一大事だと叫びだした。 「どうしたのですか、長」 「皆、よく集まってくれた」 「長の大声が聞こえたからですよ」 「おお。そうだった。実はとんでもない事が

        【 文学トリマー 】#毎週ショートショートnote

          【 命乞いする蜘蛛 】#毎週ショートショートnote

           「団長~、釣れました。生きのいい我らの食べ物が」 「おお、やったな。すぐに帰還せよ」 母星に戻ると、すぐに透明な容器に釣った物をひとつずつ入れた。 我らはその高級食材を、“ヒト”と呼んでいる。 ヒトを我らの体から出る粘着性のある糸で、がんじがらめにする。中身を溶かす液体を注入。 そして我らは、中身を吸引する。 特に青色星のヒトは栄養価が高く、美味しいと評判だ。金持ちが高値で買ってくれる。 そんなある日、隣の地区の貧しい青年がヒトを盗もうとし捕まった。 「なぜ、こんなことをし

          【 命乞いする蜘蛛 】#毎週ショートショートnote

          【 お返し断捨離 】#毎週ショートショートnote

           「僕達の初めてのホワイトデーだね」 と、彼は都心から2時間の所にある別荘をくれた。 私は、ホワイトデーにその別荘へ行く。 そこで彼は、毎年、毎年、私に彼の所有物をくれる。 そのうち私はその別荘で、彼の物を整理整頓しながら暮らすようになった。 彼の都会の部屋はだんだん所有物が無くなり、彼は“快適だ”と言うようになった。 私は、どんどん心が重くなるのを感じるようになった。 少しずつ、彼から貰った物を処分するようになった。彼に内緒で。  ある日から、彼は別荘に来なくなった。 彼に

          【 お返し断捨離 】#毎週ショートショートnote

          【 洞窟の奥はお子様ランチ 】#毎週ショートショートnote

           朝一、冒険者ギルドに行くと、国からボス討伐の依頼が届いていた。 俺に断る選択肢はない。大食い5人と魔法使い2人を連れて洞窟に潜った。  地下3階。おしゃれなドアが現われ、ゆっくりと開いた。 「いらっしゃいませ。今日のメニューは、お子様ランチです」 イケメンなゴブリンが、ニコッとした。 すぐに、8人分のお子様ランチが並んだ。 「可愛いクマちゃん型のご飯、我が国の旗が立っている」 「魔法使い、毒がないか鑑定」 「毒性はないわ。一口。う~ん、美味しい~」 その言葉を聞き、皆は食べ

          【 洞窟の奥はお子様ランチ 】#毎週ショートショートnote

          【 デジタルバレンタイン 】#毎週ショートショートnote

           私には、好きな人がいる。 ただ、ヒトではない。高機能アンドロイドだ。 ヒトに失恋をした日、添い寝をお願いした。 とても優しく髪をなでてくれた。 その後も、何回か家事をお願いした。完璧だった。  ある日、そのアンドロイドは、母星に戻る事になった。 母星はアンドロイドしかいない、地球の小さい植民星。 もう、会えないかもしれない。 それでも私は、そのアンドロイドに思いを伝えようと思った。  そのアンドロイドは、あるメタバース内にいる事が話していて分かった。 私は、そのメタバースに

          【 デジタルバレンタイン 】#毎週ショートショートnote

          【 ルールを知らないオーナメント ② 】#毎週ショートショートnote

           12月。庭にある大きなヒマラヤスギに飾り付けをするのが恒例だが、今年はあまりにも忙しく無理そうだ。 と、言う事で、俺は家族のために、AI執事に頼み事をしていた。  俺は仕事から帰ると、そのまま庭にまわりツリーのそばに行った。 「なんだこれは。品のない飾り付けだな」 「父、一番上に☆がないの」 俺は上を見上げた。確かに無い。 「ちぐはぐだな」 「父、色々なオーナメントが欠けていたり、擦り傷がついていたりするの」 俺は手の届く所にあった汽車を手に取った。 よく見ると、車輪がひと

          【 ルールを知らないオーナメント ② 】#毎週ショートショートnote

          【 ルールを知らないオーナメント ① 】#毎週ショートショートnote

           「は~い、皆さん。一等地の新築の家から注文が入りました」 やって来た家は、広い庭に大きなヒマラヤスギ。 「今年こそは、私が一番ですわ。もともと私の場所ですもの」 「今年も、スター姫には負けないぜ。俺が一番だぜ」 「皆さん、30分以内に飾り付けを終えてください。家主様が戻ってきますので。それでは、スタート」  「今年は、誰が私を一番上まで運んでくださるのかしら」 「まずは汽車の私にお乗りください。途中まで幹を登りますので」 姫はそっと汽車の背中に乗り込んだ。 手と足が出た球体

          【 ルールを知らないオーナメント ① 】#毎週ショートショートnote

          【 台にアニバーサリー 】#毎週ショートショートnote

           「父、この台はいつからこの広場にあるの?」 「そうだな、日本人がこの星に移住してきた時だから、丁度、1000年前だね。1000年間、沢山の人々が話し掛けたり祈ったり、この台にはお世話になったんだよ」 「どうして?」 「旧地球での室町時代、使い古した道具達は、100年目で付喪神になったんだよ。父の先祖の郷土研究者が、この小さい台にも神がきっと宿るはずと始めた実験なんだよ」 「楽しみだね、この台が動いて話すの」 と、はしゃいでいる娘を肩車しながら、俺の家にある膨大な資料を思い出

          【 台にアニバーサリー 】#毎週ショートショートnote

          【 白骨化スマホ 】#毎週ショートショートnote

           「おい、また左側が白骨化した遺体が出たんだってな。今回の身元は?」「小型のレントゲンを開発していた研究者です。スマホサイズで、身体にあてると内臓・骨の状態がピンポイントで確認できるようです。被曝量がほぼ無いので、身体に優しいそうです」 「なるほど。それで実用化に向け、一悶着でもあったのか」 「ありません。助手に、これで侵略者の殺し方が分かり対策が立てられると話していたようです」 「しかし、殺されてしまったな」 「そうですね。唯一違う所は、左手が握られていました。中には長さ約

          【 白骨化スマホ 】#毎週ショートショートnote

          【 木の実このまま税理士 】#毎週ショートショートnote

           「リスミ様、概算ですが数値が出ました。このままですと、ウサギン国に食料倉庫の半分ほど渡す羽目になります。春まで食料がもちません」 「ですから、凄腕税理士キノミンさんにお願いしているのです」 「いくらなんでも・・・。あ、商売に特化したAIをたくさん購入していましたよね。どうにか、経費にしましょう」 「え、20万グリ以上した、あの隣のニンゲン国と瞬時に繋がるAIを」 「確かに20万グリ以上は減価償却ですが、今期の収入によっては全額経費に出来ますよ」 「さすがですね。それで、行き

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          【 強すぎる数え歌 】#毎週ショートショートnote

           学校の帰り道、いつもの神社で幼馴染みと話していた。 逢魔が時になった途端、数え歌が聞こえてきた。 「え、何、その数え歌。聴いた事、無いな」 俺は声を掛け幼馴染みを見ると、目の瞳孔が開き放心しているように歌い続けていた。 途中、最後まで聴くと大変な事になると死んだ祖母ちゃんの声が聞こえたような気がした。  俺は家に帰ってからも数え歌が気になり、ノートに覚えている歌詞を書いていた。そのまま寝落ちした。  俺は、学校の帰りに寄った神社の前にいた。本殿の扉が開いている。 本殿の中に

          【 強すぎる数え歌 】#毎週ショートショートnote

          【 戦国時代の自動操縦 】#毎週ショートショートnote

           ある日の夜半。京と宇尾城のまわりが明るくなった。昼間のようだ。 空には光る球体が、二手に分かれ多数浮かんでいた。 「何だ、これは。一体どういう事だ」 俺は空に向かって叫んでいた。すぐに空からひとすじの光が降りてきた。 あれは以前、俺に会いに来たモノだ。 「殿様、今から戦(いくさ)が始まります。天守閣より見ていてくだされ」「何をした、前線の足軽に」 足軽たちが命令もしていないのに、空の球体と同じ配列で並んでいる。 大声を上げても、誰も見ようともしない。一体、どうした事だ。 「

          【 戦国時代の自動操縦 】#毎週ショートショートnote

          【 親切な暗殺 2 】#毎週ショートショートnote

           毎週月曜日、金色の文字で“暗殺者より”とタイプされている手紙が届くようになって一年。手紙には、俺の悪事が詳細に暴かれている。最後の一行には決まって、“悔い改めよ”と打ってある。  このままでいくと、今月末には一番新しい悪事が暴かれている事だろう。その時、どうなるのだろう、俺。  そして、やってきた月末。俺は、ポストを見に行った。やはり、手紙が入っている。朝食を食べながら、封を切った。  そこには“死”と、金色でひと文字だけ。もの凄く怖い。鳥肌がバーっと立った。       

          【 親切な暗殺 2 】#毎週ショートショートnote