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【シロクマ文芸部】冬の海岸~彼女の場合


 振り返ると、海岸沿いのリゾートホテルの入口の灯りが目に眩しい。まだ夜の明けきらぬうちに私は一人でホテルを出てきた。冬の明け方はより一層寒くて、ブルっと身震いしながら入口に待機していたタクシーに乗った。

 あの人はまだ眠っているだろうか。それとも、寝たふりをして私が一人出ていくのを見ていたのだろうか。まあ、そんな事はどっちでもいい。私はあの人と別れて一人に戻ったというだけの話だ。

 あの人は年齢よりも若々しく、どこか少年っぽさの残る人だ。最近、私から離れたがっている様子を感じていた。私はあの人と一緒になりたいと思っていたけど、あの人はそうではなかったようだ。まだ縛られたくない、何かをやりたい、そういう思いを抱いているであろう事は一緒にいて手に取るように分かった。

 おそらく私の事を好きなんだと思う。愛してると思うほどには。だけど、あの人は枠の中に納まる人ではない。私は広い枠の中で幸せを手にしたかった。あの人は枠の外で幸せを手にしたいのだろう。

 あの人は私を物分かりのいい女だと思っているようだけど、それは違う。私には大人になりきれない少年の冒険ごっこに付き合っている時間は無い。誰かと一緒になって、子供を持つには期限がある。いつまでも与えられない幸せを求めて指を咥えている訳にはいかない。あの人の事は今でも愛しているけど、私は他の誰かと幸せを見つける。

 あの人、鞄の底に忍ばせた指輪に気がつくだろうか。一緒に好きなお酒の小瓶も入れておいたのだけど。

 空が明るくなり始めてきた。タクシーは海岸線をスムーズに走る。海を眺めていたら思いがけなく涙が溢れてきたけれど、カーラジオからはなにやら陽気な洋楽が流れてきた。この曲は、あの人の車の中で聴いた事があるなぁと記憶を手繰り寄せる。そして、餞別代りに拝借してきた私からあの人へプレゼントしたZIPPOをコートのポケットから取り出してぎゅうと握りしめた。


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シロクマ文芸部に参加します💛
今週のお題は「振り返る」です。


先日、こういう記事を書きました。

その時、冬のリヴィエラで短歌を詠みました。

別れ際鞄の底の指輪かな
哀しみ身勝手冬のリヴィエラ

すごく爽やかな感じのする演歌なのです。
短歌にするにあたって、じっくり歌詞を読んでみたんです。
そしたら、なんとなく身勝手なヤツやなぁという感想を持ちました。

今回のお題、何を書こうと思った時に、冒頭の薄暗いなか振り返るとリゾートホテルがあるっていう映像が浮かびまして。
きっと無意識に冬のリヴィエラが頭にこびりついていたのでしょう。
それで、この曲の歌詞を彼女目線で見たお話にしてみました。

物分かりのいい女性だって、心の中じゃ何を考えているか分からないものです。って(´・ω・`)知らんがなww


今日も最後まで読んで下さってありがとうございます♪

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