大人の世界を覗き見した感じ
初めて買ったCDは、背伸びしたい年頃の私が大人の世界を覗き見した感じがしたものだった。
私が初めて買ったCDはこれだ。
Mind Note 稲垣潤一
この写真はその時買ったCDのジャケット。まだ手元にある。今でもたまに聴いている。
なぜ、このCDを買ったのか語ってみようと思う。
私が初めてCDを買ったのは18歳の3月だ。CDを聴くためのプレーヤーも持っていなかったので、それも一緒に買った。
そこから遡ること3ヶ月前。
私は免許を取るために、自動車教習所(✳︎)に通っていた。本当は、近所の友達と一緒に近くの自動車学校に行きたかった。けれど、父の友人が教習所の先生だったので、少々遠い教習所に通うことになったのだ。
✳︎自動車学校と自動車教習所は似ている様で違う。できれば自動車学校に通った方が楽に免許が取れる。
冬休みの間は昼間通っていたので、教習所のバスが送迎してくれた。ところが、学校が始まると夕方の教習になる。私だけが反対方向から通っていたため、行く時はバスが迎えに来てくれたが帰りの足が無かった。そこで、苦肉の策で私と同じ方向の先生が帰る時に、その先生の車に乗せてもらう事になったのだった。
今なら、おそらくできない方法だと思う。当時はのんびりした時代だったからできた事だろう。
先生は私より10歳ほど歳が上だ。私は家族や友達の親御さん以外の車に乗るのは初めてだった。
本当に緊張して、ドキドキした。
先生の車は、当時の型から1世代か2世代前のこげ茶のセドリックだった。当時うちの父はカリーナに乗っていたので、メーカーも車としてのグレードも違う車に少し戸惑った。
けれど、先生もこんな事には慣れているのか普通に助手席に乗せてくれた。たわいもない話をしながら30分弱のドライブだ。なんだか、緊張して損した感じ。
先生の車では色々な曲が流れていた。
そのなかの一本(カセットテープだから)が、稲垣潤一さんのMindNoteだった。
私は、稲垣潤一さんの曲はドラマティックレインくらいしか聴いた事がなかった。だから、初めは誰か分からなかった。
でも、思い出のビーチクラブがかかった時に稲垣潤一さんなんだと分かった。その頃、ジンジャーエールのCMで使われていたからだ。
車の中で聴く稲垣潤一さんは、とても良かった。しかも、男の人と一緒だし。先生は正直、私のタイプではなかった。けれど、バイアスが掛かっていたのか、ちょっと好きになっていた。もっとも、先生も教習所の生徒で、おまけに制服を着た未成年の私に手を出す事も無かった訳で。ちょっと背伸びしたい頃の私の恋愛ごっこの様な感情と、甘い歌声の稲垣潤一さんはピッタリはまったのだと思う。
そんなこんなで、2月の月末には無事に免許が取得できた。そして、私は教習所と先生から無事に卒業した。
2月の中旬には卒業式も終わっていたので、3月に入ると試用期間という名目で社会人生活が始まった。1ヶ月仕事をし、初任給を手にした。
両親にそれぞれプレゼントを買った。
自分へのプレゼントに、CDとプレーヤーを買った。
初めてのCDは、ちょっと甘酸っぱい思い出のあるCD。
歌詞カードとにらめっこしながら、じっくり聴いた。歌詞カードに書かれている歌の世界は、まだまだお子様の私にはよく分からなかった。
大人の男女の色々な事。
彼氏もおらず、雑誌や本の知識しか無かったから。男女間の秘め事や艶っぽい事はサッパリだった。
それでもCDを聴くたびに、大人の世界を覗き見した様な気がした。体験してもいないのに、大人の男女の色々が分かった様な気がした。
あれから月日が流れて。
私もそれなりに人生経験を積んできた。
それなりに、色々な恋愛もそうじゃないのもしてきた。
今なら分かる。あの歌詞カードに書かれた歌の世界が。歌の世界の男女の気持ちが。
あのCDは今でも手元にあり、時々引っ張り出して聴いている。
歌の世界は分かるようになったけれど、あのCDを聴くと私は教習所に通っていた頃の世間知らずだった小娘に逆戻りする。
きっと、それはいつまでも変わらない。
あのCDを聴く私は、忘れてしまった甘酸っぱい気持ちや、もどかしい気持ちなんかの青い感情を取り戻しているのかもしれない。
☆この記事は、初期に書いた記事のリメイクです。☆
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