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あの時、なんで話せなかったんだろう

*この記事は、以前書いた記事を加筆修正したものです*


私は、小学2年になる前に引っ越しをしている。前の家とは同じ市内で、距離も2キロも離れていない。だけど、学区が変わってしまうので転校を伴う引っ越しだった。

新しい家は、その頃に一斉に分譲した大きな団地だった。

引っ越しの日、私と弟は作業の邪魔になるので団地の公園で遊んで待つことになった。その日は日曜日で、同じように引っ越してくる人たちも多そうだった。公園には、たくさんの子供たちがいた。

子供がたくさんいると、自然と仲良くなっていくもの。私と弟もいつの間にか一緒に遊ぶ子ができた。

その中に少し大きなお姉さんがいた。その子は、れいこちゃんといって私より2歳上だった。れいこちゃんは、背が高くて優しくて面倒見のいい女の子だ。お姉ちゃんが欲しかった私はれいこちゃんの事がすぐに好きになった。


新しい小学校はかなり遠くて、小さい子供の足では1時間近くかかっていた。そのため、自然と何人かで登下校するようになっていた。

普段は仲のいい同級生と登下校していたけど、たまにれいこちゃんも一緒になる事があった。れいこちゃんと一緒の日はとても嬉しくて楽しかった。

れいこちゃんは、学校や家の近くでも私に会うといつも「みゆー!」って声を掛けて手を振ってくれた。そんな時は、私もれいこちゃんに手を振った。優しくて、本当のお姉さんみたいだった。


1年が過ぎた頃、家の近くに新しい小学校ができた。今度は10分もかからずに登校できた。新しい小学校は、まだ規模が大きくなかったため、れいこちゃんにも良く会えて嬉しかった。

そんなある時。

近所にそろばん教室ができた。

別に私はそろばんなんてどうでもよかった。でも、れいこちゃんや他の何人かが習うと言ったので、私も一緒にそろばんを習う事にした。
動機が不純だったので、あまりそろばんの練習にも身が入らなかった。けれど、そろばん教室の日はれいこちゃんともゆっくりお話したり、遊んだりできるから、がんばった。

そろばんの検定試験を受けに行く事も、まるでイベントのようだ。少し離れた所に受けに行くのだけど、みんなでわいわいと盛り上がり楽しかった。
肝心の結果は覚えていないけど、教室に通っていた間にそこそこの級まで取った気がする。まさかその頃は、後に再びそろばんをする羽目になるとは思ってもいなかった訳だけど。

また、そろばん教室ではたまにイベントがあった。
草スキーやスケートに連れて行ってもらえるのだ。

そんな時は、何日も前から楽しみだった。

お弁当を持って、お菓子も買って、お小遣いも持って。
れいこちゃんや、他の仲のいい友達。みんな一緒にバスや汽車(電車ではない)に乗って目的地に行く。
着いたら、みんなで楽しく遊ぶ。お弁当を食べる。お菓子も食べる。
草スキーも、スケートも怖かったけど、みんなと一緒だから楽しかった。スケートで転んだ事も楽しい思い出だ。


そんな楽しい時も、れいこちゃんが小学校を卒業して終わってしまった。


中学生になったれいこちゃんとは、あまり会えなくなったけれど、たまに家の近くで会う事があった。そんな時は、前と変わらず大きな声で私の名前を呼んで手を振ってくれた。私も手を振り返して、駆け寄った。あいかわらず、れいこちゃんは優しいお姉さんだった。


そして、私も小学校を卒業して、中学生になった。

私の通う中学校は、規模がとても大きな学校で、ヤンキーみたいな人もたくさんいた。もちろん、れいこちゃんはヤンキーではなかったけど、生徒が多すぎて滅多に合う事も無かった。

私は部活に入り、毎日が慣れない事だらけでクタクタだった。
部活で先輩との付き合い方(礼儀)を叩き込まれ、トレーニングや球拾い。体も疲れるし、精神的にも疲れていた。
勉強も、うんと難しくなっていくけど疲れてしまって、両立も大変だった。

秋になった頃。

中間テストの部活休みで、久しぶりに早く下校していた時。
もうすぐ家に着く、そんな時。私は声を掛けられた。

「みゆーーー!」

声の主は、れいこちゃんだった。久しぶりに会ったれいこちゃん。私は前と変わらず駆け寄ろうとしたのだけど。そこには行けなかった。

そこにいたのは、れいこちゃんと引退した部活の先輩だったから。その先輩は、ちょっと怖い人だった。

私は、上げかけた手を元に戻して、自転車を降りて会釈して「こんにちは。」とだけ言ってそこを通り過ぎた。

久しぶりに会ったれいこちゃん。先輩がいなければ、私は前みたいに駆け寄っていっぱいお話しただろう。それなのに、どうして。1年生にとって、2つ上の3年生は怖い存在。どうしても、れいこちゃんの所に行けなかった。

私は、また近いうちに会えるだろうと思っていたのに。

結局、その後れいこちゃんに会う事は無かったのだ。
れいこちゃんの進路も分からない。
何も分からない。

どうして、あの時話せなかったのだろう。
もし、あの時駆け寄っていれば、部活の先輩とも仲良くなれたかもしれないのに。後悔ばかりが残っている。

その後、私も受験をしたり、高校生活を満喫したり、社会人になったりで、少しずつれいこちゃんの事を思い出さなくなっていた。

そんなある時、れいこちゃんの家の前を通った時。
れいこちゃんのおうちは、引っ越しをしていた。
もう完全にれいこちゃんの事は分からなくなってしまった。


れいこちゃん。
今、どこでどうしているのだろう。
元気にしているのかな。

私の子供時代から少女時代の間、れいこちゃんは確実に私の友達でありお姉さんだった。
優しくて、包み込んでくれる、大きな存在。
大好きなれいこちゃん。
また、会いたいよ。
そして、大きな声で「みゆ!」って呼んで手を振って欲しいよ。
そしたら、私も「れいこちゃん!」って呼びながら駆け寄っていくよ。

大好きなれいこちゃん。
たいせつな思い出をたくさんくれて、ありがとう。
私の事、覚えてくれているのかな。
お姉ちゃんが大好きだった、頼りない妹の事を。


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