見出し画像

Global Business Trend vol. 19 | 小売業の勝ち筋は?〜DTCブランドは店舗を出すべし、百貨店は尖るべし〜

Global Business Trend Vol.17でDTCビジネスを世代別に解説したが、早くも業界に新しい波が来ようとしている。新しい波とはなんと、「伝統的な店舗経営への回帰」

2021年8月に入って、allbirdsWarby ParkerがIPOを実施。どちらのブランドも、デジタルネイティブなファッションブランドの先駆者として、最もイノベーティブな企業と呼ばれてきた。 Warby Parkerは、2010年にオンラインで眼鏡の販売を開始し、業界の大手を圧倒。魅力的なフレームを低価格で販売し始めに、DTCの軌跡を立ち上げた。 Allbirdsは、シリコンバレーで広く普及したウールのランニングシューズ。エココンシャスなアプローチで2016年に発売された。「一発屋ブランド」になり得るという予測は大きく外れ、Allbirdsの成功は「サステナビリティ&持続性」の訴求や、商品の製造元(ウールを使った独自素材を使用している)を強調することが、現代の消費者動向に合っていることを証明した。

ただ、興味深いのが、当初「allbirds=スニーカー」、「Warby Parker=メガネ」と、「ヒーローアイテム」と呼ばれる自慢の一品で勝負していた両者も、マーケティングに多額の費用をかけて急速に成長した暁には、より多くの事業を開始しているところだ。Allbirdsのラインナップには靴下、セーター、フィットネスアパレルが加わり、WarbyParkerもコンタクトレンズの販売を開始。そして、何よりも興味深いのが、店舗を持たないオンラインビジネスとして始まったDTC先駆者の両者とも、最近は店舗運営に力を入れているところだ。Allbirdsはすでに27店舗出典済みだが、今後数百店舗にも拡大する可能性があると見られている。WarbyParkerも米国で既に145店舗以上出店しているが、900店舗以上に拡大すると予想されている。 

以前述べたように、AllbirdsとWarby Parkerがこのようなアプローチを取っているということは、DTCがかなり成熟している証拠だと言われている。「デジタルに焦点を当てたディスラプター」としてスタートしたブランドが、実店舗に原点回帰しているのは面白い。(詳しくは、Business of FashionのWarby Parker, Allbirds and Why DTC Brands Still Can’t Scale Profitablyを参照)

DTCブランドでIPO後も成功してるのはデジタルマーケットプレイス

同じくDTCブランド先駆者のマットレスブランドCasperは、2020年2月にIPOしているが、現在価格は12ドルから57%下がった約5.13ドルで取引されている。一方、多数のブランドを扱って売っているFarfetchやRevolveの業績は好調。では、DTCブランドが好調で居続けるにはどのような対策が必要なのか?

DTCブランド成功の鍵は共感性

Business of Fashionの記事では、ここの解は「共感性にある」としている。たとえばWarby Parkerは、バイワンギブワンプログラムと称し800万足以上の眼鏡を寄付したと発表した時、売り上げが右肩上がりになった。また、眼鏡が適正価格で販売されていることもよく強調している。Allbirdsは「再生可能な天然素材と責任ある製造工程」を全面的に押し出し、他のスニーカーよりも二酸化炭素排出量が30%少ないと言われている靴を販売している。2020年には、Allbirdsの売上の54%がリピーターによるもので、2019年の46%から急増していた。

マーケットプレイスと店舗が成功しているということは、伝統的な百貨店の波も戻ってくるのか?

この流れを考えると、百貨店ブームが戻ってきそうな気配もする。しかし、インターネットが普及している今、消費者は百貨店に足を運ばなくても商品の情報やブランドのフィロソフィーをどこからでも体験できるため、百貨店が消費者にホットな情報を伝達する役目として機能する必要がなくなった。また、ブランドも、自分で情報発信を如何様にでもできるようになったため、第三者(百貨店・小売業者)の物理的資産に依存する必要がなくなった。となると、消費者とブランドは、小売業者や百貨店が仲介しなくても、問題なく商売できる全てのツールを持てるようになっている。

従来の百貨店こそ尖るべし

Business of Fashionの記事 "The Existential Question Facing Every Retailer Today"では、NIKEを主要な例としている。たしかにNIKEは、自社サイトで抽選を実施するなど工夫をし、消費者の興味を引いて、効果的に直接プロダクトを売ることに成功している。TELFARなどのカルト的なブランドも、メーリングリストで商品の販売日を消費者に知らせ、決まった時間に自社サイトで限定数のバッグを売る手法を取っている。となると、生き残るためには、すべての小売業者がそれなりの価値・バリューを発揮する必要がある。ここからは、"The Existential Question Facing Every Retailer Today"で紹介された、4つの「尖った価値」を紹介する。

文化的価値で尖る
パタゴニアは、環境への責任にひたむきに焦点を当てることで根本的な文化的価値を生み出し、この価値観をビジネスのすべての中心に置いている。日本のSnow Peakも、同じような分類に入るだろう。このように、文化価値を徹底し、店舗でもそれを全面的に押し出す必要がある。

エンタメ性価値で尖る
英国のデパート、セルフリッジは、消費者の「体験」に重点を置くことで買い物をエンターテインメントのとして捉えている。マネージングディレクターのアンドリューキースは「店で起こっているすべての魔法」と唱え、巨額の投資をしていた。

専門知識の価値で尖る
ニューヨークにあるAllure Beauty Storeは、美容インフルエンサーを雇うことに徹底。その結果、影響力のある美容専門家のダイナミックなチームが生また。全員が個人的商店のような意識で消費者と関わり、店舗スタッフ一人一人がSNSのフォロワーを通してコミュニケーションを図ることで、より美容に専門的な知識を持ったチームを集めることができた。

プロダクトそのものの価値で尖る
最近日本にもオープンした、b8taストア。最も成功している小売スタートアップとも言われているB8TAは、他では簡単に見つけられないユニークな製品や、面白くて厳選されたセレクションを紹介。そうすることで、お客さんの興味関心やヒットしているものなど市場調査データも一気に収集できる、スマートな作りになっている。

ここで述べられている価値の共通点は、百貨店や店舗が、ブランドに根本的な価値を還元している、という点。ブランドが商品を売り、その場を提供する百貨店や店舗が、お客様の反応を提供するというループが成立することで、相乗効果で売り上げがどんどん上がって行く構造が生まれていくのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?