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綾瀬さんと真谷くん8「ホワイトデー」

休日に街へ出かけていると巨大なサイネージに
「もうすぐホワイトデー!」
と広告があった。
「そういえばもうすぐやんな」
自分の失態と共にすっかり忘れてた。バレンタインのお礼にべっこう飴でもつくろうかなぁ。材料は家にあるし風味付けのレモン汁を一つだけ買って帰る。
スマホでべっこう飴の作り方を確認して試してみる。飴を作るのは初めてだから、最初は慣れなくて何度も焦がしたけど、そのうちコツをつかんで、なんとかできてきた。そこへ
「優? 何してるん?」
姉ちゃんが突っ込んできた。怖い。
「ね、姉ちゃん何?」
「ん〜? いや、美味しそうな匂いがするなって。何作ってんのさ」
「なにってべっこう飴だけど」
あげる気は毛頭ないと言うのを態度で示す。
「誰かにあげるの?」
「いや、自分で食べるけど?」
なんとなく、真実を話してはいけない気がした。
「ふーんそれならいいや」
まったくなんだったんだ? 姉ちゃんのやつ。ほんとは響にあげるけど、ものすごく不穏な気配がしたから咄嗟に嘘をついちゃったよ。さてと、べっこう飴づくり再開だ。加熱して沸騰した砂糖水にレモン汁を少し入れて、3回大きく揺らして混ぜて、放置。全体が色づき始めたら、火を止めて、シリコン型に流し込む。そして固まるまで1時間半常温で放置したら完成だ。やれやれ、やっとうまくいった……そろそろ心が折れそうだった。

学校からの帰り、響にべっこう飴を渡す。ハート型のそれはかなり力作だ。
「ゆ、優?」
ぽん、と肩に手を置いて注意を引く。
「ああ。これ、バレンタインのお礼に飴作ったんだ」
ものすごく簡単なやつだけど。
「美味しそうですね。あ、今食べても良いですか?」
「良いよー」
どうだろう、気に入ってもらえるかな。華奢な白い指が飴を摘み、口に放り込む。
「美味しいです。優、頑張ってくれてありがと」
やった。美味しいって言ってくれた。頑張った甲斐があったよ。

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