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不機嫌なあなたへ

むかしむかし、
すごく繊細な男の赤ちゃんがいた。

母親が両腕から放すとギャン泣き。
雨が降っては泣き、
カンカン照りでも泣き、
扱いにくく母親を困らせていた。

赤ん坊の防衛能力としては優秀。



地球という場所は
弱肉強食の戦地。



身の危険を察知したら
ギャン泣きして安全を確保するぞ!
と決めてこの世に誕生した。

何しろ既に三人もやんちゃな男たちが
「ちっ、また男らしいぜ」と敵視して待っていたからね。

誕生した瞬間にサバイバルモード。
母親が見てない隙に
どんなイタズラをされるかわからない。

とにかく泣いて泣いて身を守った。

そんな繊細な赤ちゃんだったけれど
成長するにつれ知恵がつき、
「お喋り」と「愛嬌」という戦術を
身につけた。


その武器は
泣くよりもずっと効率よく
欲しいものを手に入れることができた。


そのうち両親だけでなく、
ジジババにも可愛がられるようになった。

学校に上がると女の子にモテモテだった。


その4番目の男の子から更に続けて
男、女、女、男、女と誕生。


9番目に誕生した女の赤ちゃんは
更に繊細だった。


母親のお腹の中で待機している時から
申し訳なさでいっぱいだった。

誕生することで迷惑をかけてしまう。
貧乏に拍車をかける。
自分は望まれてはいないのでは…


恐る恐る誕生した。


意外と世界は平和だった。


でもいつまでも
子供扱いされるのが
気にくわなかった。


真剣に話を聞いてもらえない。


そこで「泣く」「拗ねる」という
戦術で注目してもらうことには成功した。
家出をして心配させ
愛情を試したりもした。

そんな幼稚な戦略が通用したのも数年。


歳の近い兄姉には
段々「またか…」と
相手にされなくなった。


相手にされないのに
不機嫌で居続けるのもバカらしくなり
自分で自分をご機嫌にする事を
学び始めた。


とりわけ読書は役立った。
映画が大好きで妄想が膨らんだ。

いつか都会に出ることを夢見た。

すると拗ねたり怒ったりすることが
どんどん少なくなった。


家庭や学校で嫌なことを言われても
自分の心は自分で守った。


嫌なことを上回る量の素敵なことを
ダウンロードした。


妄想した。
映画のヒロインを夢みた。


すると

外部の状況と自分の機嫌の
連動がなくなった。

彼女は看護師になった。

人の心の機微を読み取るのが上手くて人間関係で困ることはなかったが、

もっと深い望みが出てきた。

意識の変容でもっと自由に生きることができると証明したかった。

自分の感情を他者や環境の問題
だと思っている人の悩みを
解いてあげたいと思うようになった。

不機嫌で泣いてばかりで
かまってちゃんだった女の子。


自分の感情にうんざりしたことで、
違うステージを渇望した。

自分の感情を
自分の認識を変えることで
コントロール出来るようになったら

いつの間にか兄や姉達の
相談相手にもなっていた。


『あなたは生まれる予定じゃなかったみたいよ』と大人になってから親戚のある女性から聞いた。

やっぱり…


でも彼女は今はこう思っている。


『両親に望まれなかったことなんかどうでもいい。世の中が私を求めていた‼︎』

そんな思いで使命を遂行している。



すっかりおじさんになった4番目から9番目の彼女に届いた年賀状に、アニメサイボーグ009になぞらえたメッセージがあった。

『エネルギーを使い果たして何日も寝続けるキャラクターがいたよ。君も疲れたら充分休むんだよ』と。

人の心を扱う仕事をしている9番目に対する
気遣い。


繊細な赤ちゃんは
やはり繊細なままおじさんになった。


いつもさり気なくじわっと心に響く優しい言葉を紡いでくれる。


004兄さんありがとう。

009より。


(事実にすこ〜し脚色しましたw)

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