ひとと植物をみつめて イギリス編 1
迷子のたぬき
朝の福岡空港にて、どこからか迷い込んだ一匹の若いたぬき。
完全人工のシャープな空間で、出口を探しながら地下への通路をただ走るしかない姿がすれ違う。
じぶんの存在が場違いなことを知るこころもとなさ。
出口を見つけたとしても、その先に広がるさらなる人工迷宮地帯に対処しなければならない彼を思うとなんとも絶望的で、バツの悪い思いで飛行機に乗り込んだ。
長くうつろな移動時間、座席ポケット冊子のひとつの記事が目に留まる。
Andre Kuipersというオランダ人宇宙飛行士。
宇宙空間での彼の印象、美しくも繊細な星、ちいさなじぶんが大いなるものの一部だという感動、しかし目の当たりにされる汚染や侵食、じぶんたちにはこれだけしかないんだ、ということ。
彼はそれを伝えるべく、技術的解決を促すべく地球を回りつづける。
彼のことばが残ったためか、あれからわたしの視界が変わってしまったせいか、日暮れにてロンドンの都市のきらめく巨大ネットワークを上空から見たとき、目は 都市 ではなくその地平線の先までくっきりと、 星 として捉えていた。
そして、世界の新旧・雑多が入り混じるかつて憧れとして映っていたメトロポリスの輝きは、なぜかそのなかに行きがけに見た一匹の迷子のたぬきが重なって見えていた。