蒸し暑い夜風がふく   広州

しかし開けたこの地形のため、その熱はこもらず彼方まで流れ去ってしまう。林立する近未来的シャープな高層ビルと、まるで岸壁のようにごたごたと集う古めかしく黒ずんだビル塊の間をぬって。

不思議な空気。ハイウェイや高層ビルのファッショナブルなライティングと、黒いビル塊の窓に薄暗く灯る、それと相反した人間臭い安蛍光灯の明りを自然となじませ、南国の夜風はふたつの矛盾する世界を統一した。

閑散とした大通りを歩く。瓦礫の工事現場、暗がりを一層漆黒へと落とす強烈な工事用ライトのもとで男が新聞を読んでいる。敷地内にある労働者用の簡素なプレハブ前、チラチラと移ろうテレビの光彩に照らされながら、二十名近くの上半身裸の男たちがただ呆けたようにテレビに見入っている。小さな公園では、この熱帯のまどろんだ空気に誘われてふらふら出てきた人々が、なにやらクラゲのように漂っていた。合唱するものたち、草むらで寝そべるものたち、木にぶらさがるものたち、けまりを楽しむものたち、連れ合い、どこゆくともない犬たち。

 

なにやらがむしゃらだったり、がらんどうだったり、そんな自分がこの空気の中では実にムダであったような、そんな風に私もこのまどろみに感化され、ただ生ぬるい悲しみのようなものを感じていた。