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ひとと植物をみつめて イギリス編 2

青と銀のひかりの国


移動に移動を重ねる時間が、内なる時間の壁を崩し、感覚だけを鮮明に浮かび上がらせる。

北へ、北へ、列車は上る。


遅い朝陽はなだらかな地平線から空をピンク色の兆しで染め、突如真紅の直線を射し乗客を沈黙させる。

レンガ色の小さな町並みが過ぎ、また過ぎ、海があ

らわれる。

雲がかかり世界に影をさし、雲がいつしかおぼろに変わると、それまで灰色の世界に沈んでいたすべてが銀色に輝きだす。

しずかな、しずかな、銀の海に、空に、浮いた白い太陽の眼がふしぎにずっとみていた。


わたしのなかを、とても静かにしてくれる、冬のスコットランドのひかりが大好き。


ああ、ここに帰ってきたんだ。 おかえりと言われている! 

ファイフの地で懐かしき人々と再会を果たし、ハイランドへ向かってさらに北へゆく。

列車が進み人の気が疎らになるにつれ、反対に森の気は高まってゆく。

しんしんと積りゆく雪に気温は下がるも、わたしの中心は徐々に熱くなっていった。


森が生きている

木々は静けさをますほどによりその生を謳歌し、雪に白く染まりながらも嬉々として輝きだす。

それからさらに進むと、こんどは冷たい海風に浸食されむきだしの岩だらけの大地が広がる。

苔や草や、低いアカマツのみが生き、ときどき針葉樹の群れが過ぎ去る。木々は寡黙に、ひたすら厳しさのうえにたたずむ。

縁といえば縁で、冬の嵐は不案内な旅の者の足を止め、予定していた北西の果ての半島へは行けずに結局私は森林の豊かなスコットランド中央部まで引き返して旅をつづけることとなった。