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かりそめのまなざし 4.瀬戸際のアルバトロス

このまま行こう

男の太い声で、ランタンの灯りに晒された数名の黒々した人影はゆらゆらと持ち場ついた。

波は一段と大きくなって襲ってきた。大きくうねりながら船は鈍い金属音の悲鳴をあげる。わたしは叩きつける雨で視界を遮られながらも、複雑にうごめく波の道筋を見定めようとした。

絶望、というに相応しい鉛色の景色。

こんなとき、船のボルトの緩みから船員同士の伝達の行き違いまで、ほんのささいな事が、すべてを海の藻屑へ変えるに十分な要因となり得る。荒波はいつでもその準備ができていると吠え、それを前にわが身とこの船のすくむような小ささをひしひしと感じていた。くぐり抜けるのは万にひとつの奇跡。

ふと、上を見た。
真っ黒な雲の下、大きな海鳥が一尾、現実味なく、羽を広げ突風のなか滑空している。まるでこの嵐がその次元では関係のない出来事のように悠々と。

・・・逆だ。鳥はわが身で嵐になっているんだ。


こころに火が灯る  

わたしはいつしか笑っていた。複雑に打ちつける波の重なりの混沌が、そのとき、その先に繋がった。

くぐり抜けた その先の未来へ

大きく揺らされながらも、その一点からわたしの目は離れることはなかった。