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コムニ  5

どこまでも広がる骸となってしまった家並みを過ぎ、トラムはスピードを上げ新都市へ向かう。形骸のみの旧都市は長い時放置され黒々と静まっている。その広大さに比べ新都市は小規模で、消失した世界との人口の差を語っていた。
都市といえども寄せ集めの建造物群で、新たな都市計画に基づくというよりも、有り合わせのライフラインでしのいでいるといった途上段階が続いているのであった。
ただしトラムの乗客たちの表情には、時代の激しい移りによる疲れこそ表れていたかもしれないが、未来へ向かう聡明なひかりが映し出されていた。...どの者の目にも。

この時代の光景にいちばん異質であったものは、空、だ。
厳密にいえば死んだ都市の上空を飛ぶ機体の様相だ。それは明らかに地上に広がる旧文明の進度と思考レベルを超えていた。物質的質量にしても、重力を無視した動線にしても、それらは完全には解明できていないまるでトンボやチョウの飛行のようでもあった。

それがなぜ今ここに存在しているのか、その目的が何なのか、だれも知らなかった。そして自分たちの生活に影響を及ぼさないものはそれこそトンボやチョウのように、改めて興味を示されることもなく日常の情景と化していた。

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