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曼珠沙華

曼珠沙華

‪重い風に逆らうように土手を歩く‬
‪いつまでも歩いていたいと思った‬
‪いつまでも‬

‪川の流れを堰き止めているのは‬
‪大量の藻だった その藻を‬
‪一心不乱に解いている老人がいた‬

‪解かれた藻は次々と開放され
川面を飛ぶように軽く下って行く
日常が解かれていくのだ

その時
一筋の追い風が吹く
橋の向こうで
秋を祝うように
曼珠沙華の緋色が
風景を目覚めさせた

森へ

このところ‬
‪午後になると空の色が変わる‬
‪たちまち現れる分厚い雲は‬
‪何か言葉を含んだように私を誘っている‬
‪私は空色のリボンをつけて‬
‪ゆっくりと歩いて行く
‪雲により添いながら

空は緑色になって
木々がざわめく
どこかで出会ったような風が
不意に通り過ぎる
迷い込んだ道 森への道
子供のころのように
帰りたくないような
うしろめたいような
そんな気持ちになる

森の入り口では

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この春

この春

春一番が吹くように
別れは突然に来るもの

風が去ったあと
日常が
ガラスケースの中に詰められていた

私はオルガンを弾く
無邪気な歌声が聴こえる
当たり前のように過ごした日々が
ガラスケースの中で
想い出という名前になった

しかし風は優しい
風は
時間だけを切り取り
さらっていくから
だから
想い出というものはこんなに綺麗

ガラスケースの中の
"もうない日常"を
外側から見ている私は
今日ま

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やわらかな冬の風と

やわらかな冬の風と

木漏れ日に冬の風がやわらかに吹く
天気のよい休日に
昨日までなかった花の色を見る

薄桃色のそれは
尊い人の魂の色のように
ひとつひとつ濃く
生まれ変わるように開く

風景も風の匂いも人の声も
新しくするように
みずみずしい艶を放って咲く

これだけ天気のよい休日
やわらかな冬の風に抱かれて
ささやかなお祝いをする
薄桃色の花の色の
魂の有る処にそっと
生まれ変われるように
祈るように

紫花(桔梗)

紫花(桔梗)

薄紫の慎みで
小さな星の粒を
守っているような
桔梗の
鐘のかたちに沿って
青空の扉が開く
残月が
山風を連れてくる

渡りの支度をする鳥たちが
ぎりぎりのところで
星の粒を数えている
紫の花のふくらみに
隠れてしまってもなお
忘れることなく
数えている…

鏡 雨の日

窓辺に打ちつけるの雨の不協和音が、物悲しい笑みの余韻を引き立てている。あなたがいた海の記憶を集めた点描の絵が、コンクリートの壁に掛かっている〜鍵のついた扉を開けると鏡の世界へ行ける。金色の蛾が、鱗粉を撒き散らしながら紫色の夜に誘うように。

「鏡」雨の日はラヴェル

デカルコマニー

輪郭のない肖像画 
それは
水浸しの風景の中に閉じ込められている
うずまき模様に滲んだ水彩のように
私の前に時々現れる
懐かしい痛み
原色の光が明滅する交差点で
夏の太陽を切り裂くように激しく
私はアスファルトの上で倒れる
誰も私のことなど知らないのに
刺すような眼差しに
やられてしまったようだ いや

やってしまったようだ そう 
刺すような眼差しを
誰もその人のことなど知らないのに
その人はア

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雨の日の亡霊

雨の日の亡霊

雨の日の亡霊 竹原深雪

元気ならいいです
ここにいます
ノイズにまみれて聞こえる
やさしい雨の中で
あなたの声だけが喋っているみたい
風雨にさらされて
亡霊のようにかすんでいても
それはあなただとわかった

声が波紋のように広がっていく
どこまでも
そしてあなたの小舟が
銀の波に消えて行くのを
じっと見ていた
それがいつのことだったのか
もう忘れてしまったけれど

わたしが砂になる頃
西の空に輝

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