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飼い主づきあいの憂鬱

まあまあ大きめの犬を飼っているのだけど、彼との散歩は私のたからもので、風邪を引いたり仕事の納期が迫ってたり、すごいお腹が減ってるのにご飯作る元気ない時以外、つまり私の心や体に余裕がない時以外は、日々の散歩が待ち遠しいほどの時間になっている。

眠る。食べる。排泄する。遊ぶ。その4つに集約された、憂愁とはおよそ無縁な生活を送る彼を見ていると、愛おしさを通り越して、生きているシンプリシティそのものに敬服せずにいられない。

そして、ほぼ無言の対話を重ね続けながら6年半が経った今、私に全幅の信頼を寄せて嬉しそうに公園で遊ぶ姿を見ていると、存在丸ごとありがたくて、涙が溢れたりする。


それで‥。


犬との生活自体はそんな訳で、とても穏やかで幸せなのです。
彼が共に生きてくれること、そして恐らく私より先に肉体から去ること、そこに寄り添う喜びと悲しみが私のもとに訪れる覚悟ができた上で、彼を迎え入れているのだから。

けれど、犬を飼うという決断を下した時に想定できなかったちょっとだけ厄介な案件があって、それは、飼い主付き合いなんです。


もう‥‥どうしようかしらと思ってる。

其の壱:うちのワンコと相思相愛のゴールデンリトリバーを飼っている飼い主様

初老の紳士。お話聞く限りでは、著名な方とお知り合いで、仕事柄海外に行くことも多く、会話中に携帯に電話かかってくることも多く、クルーザーを持っているらしい。会うたびに長話になり、散歩に割く時間を大幅に超える。更に、うちのワンコとお相手のワンコが出会うと、2匹とも暴力的なほどに愛情表現するので、おじ様のリードさばきが限界に達し、仁王の様な顔に変わったかと思う途端に、犬が動けないよう近くの柱や木にリードをくくりつけて、動けないようにしてしまってから、また話し出す。犬もかわいそうだし、私もかわいそうなので(予定が狂うから)、遠巻きにおじ様を見つけると、ワンコに感づかれる前に素早くコースを変えたりするけど、そのおじさんあろうことか、公園や海だとリード外してて、故に、私の感知能力をはるかに凌ぐ速さで、ワンコがやってきてしまうんです。

「リードはおつけになった方が良いかも。立て看板にも書いてあるし。」

と以前勇気を出して言ったことがあるんだけど、

「そうそう、最近こんな看板立てられちゃって。はっはっは。」

と快活に笑われてしまい、「“明らかに貴方に向けてこの立て看板は立てられたんですよ”と言うまでもないのね、ご存知だったんですね。で、それを笑い飛ばしてしまわれるんですね。」とその剛胆さにこちらは口をつぐむしかなく、波風立てたくない、そういうのめんどくさいと思っている私は何も言えず、完全敗北なんです。


其の弐:うちのワンコを恋い慕っている柴犬を飼っている飼い主様

初老のおば様。いつも私の体調を気遣ってくださったり、褒めてくださったりという部分で、嬉しい気持ちをくださる方。その方が飼っている小さな豆柴ちゃんがうちのワンコをえらく気に入ってくれていて、それはありがたいのだけど、その片想いをなんとか成就させてやりたいとアクションを起こすおば様に、私とても困っている。

散歩中に出会って、ワンコ同士が楽しく遊んでいるのはいいんです。数分ならね。大抵の方はほどほどをご存知で、こんなもんでいいか、の塩梅が暗黙の了解で共有できているので、「ありがとうございました(遊んでくれて)」とか「失礼します」とかで適度に区切って、互いに違う方向に進むのだけど、そのおば様は私が「失礼します」と言っても、「ごめんなさい、ちょっと今日は急いでるので」と言っても、ついてくるんですよ‥‥。

いや、正確には、その豆柴ちゃんがついてきちゃう、それをおば様は制することなく完全味方となって、「大好きなのねー」「まだ遊び足りないのねー」と言いながらついてくる。

うちのワンコもその豆柴ちゃんが好きならまだしも、それほどじゃない。というか匂いを嗅いだり排泄したり、他の情報を得たり処理したりすることに集中したい。

で、もっと言うと、私も、なぜ彼との散歩が好きなのかと言うと、散歩そのものが運んでくれるアイディアやひらめき、企画の整理方法、悩んでいたことへのシンプルな解答、そういった恩恵に出会える楽しみがあるからなので、それはおじ様やおば様と話してると瞬時にかき消えてしまう微細な波動がサーブしてくれるものだから、ほんと、喋ってる場合じゃないんです。

とはいえ、じゃあ、おば様に、嘘なく心のままに真っ直ぐに、

「すいません、私今高次の存在と対話しておりまして、集中したいので、ついてこないでいただけますか?」と言ったところでほぼほぼ伝わらないだろうし、そもそもすごく角が立つし、よしんばもっと分かってもらえるように伝えたとして、「すいません、今仕事のことを考えながら歩いてて、1人になりたいのでご遠慮いただけますか?」と言っても、やはりご近所さん相手にかなり角が立つし、だからこそ、

「ごめんなさい、今日急いでて」

を繰り出したというのに、まさかの効力無しな訳なので、
そうか‥‥。私が変わらなくてはならないのだな、とここ最近思っています。

想定外のことはいつでも起こりうる、と覚悟して外に出ること。

自分の予定通りに行ったらそれは最高なのだし、もしそうでなかったとしたら、諦観力を使って対話に心を向けること。恩恵を受けることをその日は諦めること。

そうか。想定していた恩恵は受けられないけれど、諦めて受け入れる、という力はつくのかも。

もう少しそのあたりを考えてみよう、でも今日はおじさんもおばさんもいないであろうドッグランまで車を走らせようかな。

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