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TOKYO PLAYERS COLLECTION/トープレ『IN HER TWENTIES 2020』がキラキラと眩しかったという感想です


20代の女性の過ごす10年間を、10人の俳優が一年ずつ、それぞれの年齢を演じるという舞台『IN HER TWENTIES 2020』を観てきました。
静岡からプロになることを目指して東京の音大へ、プロを諦め実家へ帰り、縁にさそわれてもう一度東京で音楽とは関係のない編集の仕事に就く。そんな10年間です。
『2020』とあるように、2011年が初演で、今回新たに2020年版となっているそうです。


ポスターをみていると、トゥエンティーーーーーズかぁ、って。長いですね。
85分間の上演でしたが、10年間をいっしょに過ごしたような気持ちになったので、マチネ公演を見て帰宅したときに、自室がまだ明るかったのがとても不思議でした。


20代はじまりの20歳とおわりの29歳、ふたつの年齢の彼女がインタビューに答えている言葉だけで、インタビュアーの言葉は出てこないまま、はっきりとこうですよと見えるわけではない会話が重ねられます。

それに21歳から28歳までの彼女たちの会話が加わって、
彼女以外の人がしゃべっているとも、未来や過去の彼女の言葉をコラージュしたともわからない、ゆるやかに関係していく言葉、会話で少しずつ一人の女性の生きている様子が見えてきて、掴みきれない部分と見えてくる部分の境にいることが、わかったようなわからない曖昧な気分が、なんだかとてもリアルに生きている感じがして、うん、おおかた現実はわからないことが多いよなと頷いてました。

そのわからないなかで、はっきりしない風景を、わからないまま眺めるのも楽しいものです。舞台のなかという、ひとつ守られた現実の中ならわからないことを楽しむのも意外と簡単です。



年齢が変われば着る服も変わってくるというか、実家に帰って昔の服を着ていますという感じの25歳と、東京で再起するという意気込みのあふれた26歳のギャップの激しさに、変わり目の年頃がそのくらいかと納得してはその変わりようが、なんとも微笑ましいものです。


ステージ上を大きく動くことも少なく、一人一人が離れている状況で進む物語は、舞台を見ている時には気にしていなかったのですが、感染症がないとしたら、また違った演出になったのかなとも思いますが、細やかな表情で語られるさまざまな感情が美しかったです。
20代のメモリーがない20歳を演じた谷川清夏さんの表情、まわりの会話に関心も払わずに夢をみてるような、心ここに在らずという表情が印象的でした。
そして29歳を演じた榊菜津美さんの、話を聞いているときの痛ましそうな表情に、当時を思い出して否定するでなく、ただ後悔するでなく、いままでの日々をきちんと受け止めてきた物語のなかの彼女は芯の強い女性なんでしょう。そんな心情が、すっと染み込んできます。


終盤でインタビューの終わりに答えて、29歳の彼女が古いパソコンをのぞいて、かつての自分のメールを思い出すシーンでは、
日常の出来事や、つらい告白、近況が少しずつ断片的に語られて
そのシーンの声をきいていると、まるでわたし自身が書いた手紙を読み返してるような、その時の気持ちを思い出すような懐かしさや後悔やそれでも大切だと思える感情が、ごちゃまぜに起こってきてグッときました。

ひとり一人のセリフにときどきにはさまれる、声をあわせた「おはよう」や「りょうかい」なんかの、使い慣れた言葉の息継ぎが、ありふれてるけどすごく綺麗で大切な音に聞こえました。

彼女たちの過ごしてきた時間すべてが、キラキラと光っているように眩しくてたまりませんでした。


インタビューのあと、21歳から28歳が舞台から退場して29歳と20歳の二人が残って、20歳の彼女が興味津々というかんじで、未来の自分が座っていたイスに座るシーンがとても楽しそうで。
「きっとこの先に、いいことがあるだろうと思って、信じて、生きている」と29歳につげる20歳の無鉄砲さが、
知らないからこそ、何があるか分からないことを、興味と好奇心と多少の無茶と
なんかそんなものを混ぜて楽しみにしている姿がとても大切に思えて、特に好きなシーンです。

そんな20歳にまだまだこれからよと励まされ?た、29歳の彼女のラストシーン。
慣れた仕草でバッグを肩にかけて歩き出すときの背中がかっこよくて、カーテンコールの最後に時計を気にするようすがチャーミングで、でもそんな彼女も、まだまだあって、みんな頑張れと、
物語の彼女にだか、舞台の上の俳優さんやスタッフの方々だか、劇場にいる人だか、わたしの知ってる人も知らない人もみんなまとめて、誰彼かまわない感じで応援しつつ、わたしも応援されました。

生きてたら、それはほんとにいろいろと、ありふれた悩みやトラブルや不安を、だれでもわたしも抱えています。そんな感情で凝り固まってる部分が少し緩んで、劇場を出た後に晴れた空を見上げて、呼吸がすこし深くできた気がしました。
先に何があるか分からないから楽しいんだよな、うん。
たまにはそう思ってみるのもいいものですね。


スピンオフ小説のなかに、その後の彼女がすこしうかがえて、さらに応援する心持ちが大きくなりました。

20代の最後から、30代の最初にうつった彼女は、またそこでいろいろなことがあって、20代の最初だった彼女も、少し前は10代の最後の19歳で。
そんなふうに続いてくのも、なんだかいいものだなと
ちょっと楽観的に思えるのが嬉しいです。


(9/9追記:再演と書いてしまっていましたが、新たに2020年版ということでしたので修正しました。申し訳ありません)

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