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子育て成功例は参考にならない

 子育てに悩みはつきもの。うちも子育ての終わりかけた3人の子供がいますが全員タイプが違い、育てる過程ではそれぞれの悩みがありました。また、仕事柄子供に発達傾向があるとか、なにがしかの偏りがあるのでは?という相談を受けることもあるのですが正直ちょっと聞いたくらいでは子供さんの事や家庭環境など詳しくわからないのでお答えできないことが多いです。どこか相談するところを紹介するくらいしかお役に立てません。

子どもってお母さんのおなかから出てきたと言っても別の人間なので、お互いに完全に理解することは難しいと思います。ましてや発達に偏りがあって一般的な子供像とずれがあるとますます理解するのが難しいですよね。どうやって育てていけばいいのか分からなくなることだってあると思います。そんな中、難しい子育てを成功させた保護者の講演を聞いて参考にされる方もたくさんいらっしゃいます。知識を得ることはとても大切です。わが子を知る手掛かりとしての知識があるのとないのではずいぶん違います。それでも、やはりうまくいった事例を参考にすれば講師と同じように子育てがうまくいくのかというと、そうとも言い切れないのです。

 一口に発達障害の特性があると言ってもそのあらわれ方は千差万別です。まず、講師の使った様々な子育てのコツはその子供には有効だったかもしれません。少なくとも話を聞いて、比較的うちの子と似たタイプだと思える場合には試す価値があるかもしれませんが、あなたの子供さんに合っている方法かどうかはやってみないと何とも言えません。少しのアレンジが必要な場合もありますが、すべての保護者がアレンジまで行きつけるとは限りません。

 うちの子は将来どうなってしまうんだろうかと日々不安を感じていらっしゃる保護者の方にとって難しい子育てをやり遂げて名門大学を卒業させたり大手企業に就職した、結婚したという話はわが子の希望にあふれた未来をイメージさせるでしょう。でもそもそも子供の傾向や能力が違ったり、子育てに時間を割ける保護者の余力が違ったり、保護者と子供との相性、保護者の得意や苦手、身もふたもない話ですが経済力や文化資本など様々なものが奇跡的なバランスでそろっての子育て成功話なのです。講演を聞いただけでは分からない成功要素が無数に存在します。

 また、根本から覆すようですがそもそも大学を出たり就職・結婚できたことがゴールかというと、その後の人生の方がはるかに長いです。すごい企業に就職することよりも本人が追いつめられることなく仕事を続けられるかどうかが大事です(もちろん大手企業で働き続けられればそれに越したことはありません)。結婚生活になるとさらに乗り越えなければならない様々な問題が起きてくると予想されます。つまり、成功例は現時点での成功であってその後それが続くという保証はありません。極端な話、子供が人生を終えるときまで子育てが成功だったかどうかなんてわからないのではないでしょうか。

 子育ての成功をどう定義するのか難しいところですが、保護者が年老いてケアをすることができなくなっても自分で生きていく力を得ることと考えてみましょう。ここで大切なことは「自分で生きていく力」とは一般的な仕事について収入を得て生活することだけを指すのではありません。本人の適性や能力に合わせて無理なく続けていけるライフスタイルを作っていくことが必要です。無理なく続けるために自分に向いた仕事を選ぶことや、自分でできる生活スキルを身につけていくことなどがありますが、それでもまだ難しい場合にはサポートアイテムとして精神科通院や投薬があったり、福祉サービスを利用した就労訓練などの利用、家事や外出のヘルパー利用など考えられます。これらを利用することに「普通じゃない」と抵抗を感じる方も少なくありません。

 しかし、ある程度の年齢まで一般的な方法で育てられても周りと同じように社会的な振る舞いや常識、作業スキルなどが身につかない場合は「一般的な方法で教えたのでは覚えられない苦手さ」が存在します。今までと同じ方法にこだわってずっとチャレンジを続けても苦手さは解消されません。時間だけが過ぎ、挫折感からご本人の自己肯定感は下がり、社会適応の難しさは残されたままです。ですが福祉サービスを利用して簡単なところからトレーニングを始めても長い期間続けることで様々な社会的なスキルを身につけることができます。最近では就職に向けたトレーニングを行う福祉サービスも充実しています。また、仮に就職できずに永続的に福祉サービスを利用することになったとしても、ご本人が生きがいを持って作業活動に従事し、事業所で新たな人間関係を作り居住地域に家以外の居場所や見知った仲間ができることは生きていくうえで大変大きな力となります。この場合の収入は条件を満たせば障害年金や生活保護受給などの方法があります。医療や相談機関、福祉サービスの制度はなにがしかの生きにくさを抱える人たちが地域で生活するためのお手伝いをするためにあります。ぜひ困ったときには頼って、ご本人なりの生活を快適に送るアイテムとして利用してください。

どんな人もその人なりに素晴らしいのです。みんなが同じ形の成功である必要はありません。子供さんに育てにくさを感じた時、発達の偏りが疑われた時、知的なハンデがあると分かった時、少し気持ちが落ち着いたら様々な専門家を頼ってみてください。ライフステージに応じて様々なサポートが用意されており、今まで知らなかった多様な生き方を提案してくれます。


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三好照恵
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