見出し画像

エンハイ高校青春物語 第2話 Summer Farewell ジェイクとハル

僕はこの恋を実らせることも、あきらめることもできなかった。
僕が選んだこの道は正しかったのだろうか。

旅立ちの日。
仁川空港午後3時。

うちの前でみんなに見送られ、ヒスンヒョンの運転で空港へ向かう。僕の荷物持ちをするんだと後部座席に乗り込んだ君は押し黙ったままだ。お葬式みたいだからこなければよかったのにと言おうと思ったけどやめた。
この兄妹はほんとに仲がいい。僕もアメリカに行ったらせいぜい兄孝行をしよう。
空港の車寄せで僕と君を下ろして車を駐車場に停めに行ったヒスンヒョン。
僕たちはふたりきりになった。
出発ロビーを行き交う人々のざわめきの中、長い沈黙がふたりを包んだ。お互いにかける言葉が見つからなくて。そしたら君が突然堰を切ったように喋り始めたんだ。一旦喋り始めたら止まらなくて、僕の向こうでの生活を勝手に想像した挙句あれはダメだこれも危ないって機関銃のように喋り続けたから、
僕は見兼ねて、まるでオンマか恋人だな、心配しなくていいよ、君がいなくても僕はうまくやっていけるって言ったんだ。
すると突然、君の笑うとなくなる切れ長の瞳から涙の最初のひとしずくがぽとりと落ちて、あとは次から次へとあふれ出して止まらなくなった。
ああ、泣かないで。やっと絞り出した僕の声も何故か涙声になっていた。
君の涙を見て、アメリカ行きを決めた時から抱えていた胸の奥のチリチリした疼きが急速に大きさを増し身体中が支配されていくような感覚に捉えられた。この胸のざらつきを僕は知らない。ロビーのガラス窓に映った僕は半分怒ったような顔をしていて、それが何に対する怒りなのかも分からず自分を持て余した。心の動きを写すように僕の手はさまよいふと伸ばした手の先に君の肩があったから、両手を乗せ君を引き寄せた。小さい君が胸の中にすっぽり収まって胸の鼓動が急に速くなった自分に驚いて思わず君を押し返した。そんな僕を見てやっと君は笑ったね。ありがとうと笑って言おうとしたのにうまく笑えず泣き笑い顔になった。

空港のざわめきが好きだ。
旅立つ人、見送る人それぞれの心と心が行き交う場所でもあるこの場所が。この日の別れは僕の人生の中のひとつの通過点だ。
さあ、旅立とう。
ヒスンヒョンと君に見送られ、僕は搭乗口を進んだ。

君が笑顔でがんばってきてねと言ってくれたから、僕も笑顔で応えたんだ。だから飛行機が飛び立った瞬間僕の目から突然溢れ出した涙に自分で驚いた。君もあの時小さく遠くなっていく景色の向こうでまた泣いていたのだろうか。
幼すぎてわからなかったんだ。この気持ちが恋だったと気づいた時は、僕はもう地上からはるか遠く離れていた。
機体は低いエンジン音を響かせ、キャビンは異国への旅立ちの高揚感を持ったさざめきに包まれて、僕の涙を静かに拭うようだった。
別れ際、君は囁くようにつぶやいたね。
’ジェユナ アンニョン’
小さい子どもに言うように。
ずっと耳から離れない。

///第3話へ続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?