文字を持たなかった昭和 百二十五(夏場の熱いお茶)

 麦茶で思い出した。

 母ミヨ子自身のことではないが、その母、わたしにとって母方の祖母であるハツノのことだ。熊本出身のハツノはマメに体を動かす働き者だっただけでなく、テレビの料理番組や人づてに聞いたことを参考に目新しい料理を作る、進取の気に富んだ人でもあった。

 そのハツノは、よく働く一方で、お茶の時間になるとしっかり休んだ。飲み物は、夏場でも熱い煎茶を好んで飲んでいた。いわく
「熱いお茶を飲んで汗をかくとすっきりする」と。

 いまどきの熱中症予防対策、ことにお年寄り向けのそれからすればとんでもないのだろうが、たしかに昔は「汗をかいて暑さを吹き飛ばす」方法が日広く受け入れられ、一定の支持を得ていたと思う。「熱を以て熱を制す」と表現できるかもしれず、ハツノは間違いなくこの考え方を信奉していた。

 熱いお茶を飲みながら、どこかでいただいた手拭いで汗をぬぐいつつも――手拭いがタオルになるのはかなりあとだ――、しゃきっと正座していたハツノを思い出す。ハツノについてもじつにたくさんの思い出があるので、おいおい書くつもりだ。


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