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緊急事態宣言は、専門家に任せるには重大すぎる

関西や愛知の4府県が、緊急事態宣言の解除に動き始めた模様です。首都圏は依然として解除に慎重ですが、時間の問題でしょう。

政府が、民間の経済活動を再開させれば、感染者数は増えるでしょう。感染者が増え過ぎれば、再び経済活動を抑制して感染者を減らすでしょう。政府のコロナ対策は基本的に、その繰り返しです。

その繰り返しが悪いわけではありません。政府の景気対策だって、似たようなものです。景気循環が無くならない限り、政府は緩和と引締めを繰り返します。経済の変動が小さいほうが、長い目で見れば、高い経済成長が実現しうるからです。コロナ対策も同様に、長い目で見れば、感染者数を低く抑えることになるのかもしれません。

もっとも、新規感染者数の水準は、第1波よりも第2波のほうが、第2波よりも第3波のほうが高くなっています。長い目で見ても、といっても1年余りしか経っていませんが、感染者数をより低く抑えてきたようには見受けられません。

この展開は、1990年代の後半から2010年代初め頃までの日本の金融政策に似ています。

日本銀行は90年代の後半以降、金融緩和と引締めを繰り返したにもかかわらず、物価は安定せずデフレ(継続的な物価下落)となりました。そうしたデフレからの転換点は、物価目標2%を掲げて異次元の大規模金融緩和に踏み切った2013年でした。

「1998年から(異次元緩和を始める)2013年まで基本的に持続的な物価下落が続いたが、デフレの状況ではなくなった」

政府のコロナ対策が、過去の「日銀の失敗」を繰り返さないためには、2013年以降の日銀の政策転換に学ぶ必要があります。

第1に、コロナ対策の目標を明らかにして、その目標の実現を約束することです。日銀の物価目標2%は達成されていませんが、高めの2%目標を掲げ続けてきた結果、金融引き締め観測が金利上昇などを通じて景気や物価を冷え込ませるリスクが大幅に減りました。コロナ対策の場合だと、「新規感染者数ゼロ」という目標は今のところ現実的ではないので、「実効再生産数を1以下にする」などでしょうか。

第2に、国民の予想(期待)により強く働きかけることです。外食店や宿泊施設などの事業者には、感染予防対策を強化するためのインセンティブが不可欠です。昨年の経験上、「GoToキャンペーン」は良くも悪くも強烈なインセンティブを発揮することが明らかになりました。GoToキャンペーンなどの予算措置は、単に集客数の向上のみならず、感染予防強化の呼び水に活用するべきです。そうしないと、緊急事態宣言が解除された後の新規感染者数は、再び過去のピークを上回ることになるでしょう。コロナ対策の目標達成は、一段と遠のいてしまいます。

第3に、ルールに基づく政策変更を最大限に心がけることです。政治家の判断は、調整に時間がかかるうえ、政治的なバイアスがかかります。かといって、官僚の恣意的な判断に委ねるのも危険です。権力に民主的な統制が及ばなければ、その権力は暴走し、腐敗するおそれがあります。

以下は、1976年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、ミルトン・フリードマンの文言です(柿埜真吾さんの『ミルトン・フリードマンの日本経済論』PHP新書より)。金融政策に対する言及ですが、「金融政策」を「コロナ対策」に読み替えることができますね。

金融政策は、中央銀行に任せるには重大すぎる。
「安定的で、健全な、予測可能な金融政策」を達成するには、たんに権力者にそうすべきだと説教する以上のことをしなければならない。


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