現代の無尽講
以前、花巻で面白い話を聞いた。
ある人のおじいさんが、今日は「無尽(むじん)」に行っているという話だ。
無尽とは何かと聞くと、グループで出し合ったお金をためておいて、飲み会をするということらしい。
花巻やその周辺の地域では、高齢者だけでなく、若い人もやっているという。
調べてみると無尽(無尽講)とは、もともとは鎌倉時代に発生し、江戸時代に発展した民間の金融システムのことだった。
飲み会をするのが目的でなく、冠婚葬祭や病気、家の修理をする(建てる?)など、一時的に大金が必要になるときに融資を受けるための基金であり、保険的な要素もあったらしい。
また、みんなでお金を出し合って、くじで勝ったものが全部もらうということもあったらしい。
ネットでは、後者の宝くじのようなものであったという説明が多いのだけど、宝くじなどより、前者の必要性が高いように思う。
飲み会の資金をためるのが主目的ではないが、余ったときなどは、宴会に使うこともあったのだろう。
そして飲み会をする風習だけが、現代の東北(中心は山形)に残ったのだ。
銀行がなかった時代の金融システムだが、なんとなく現代にも似たようなものがある気がする。
クラウドファンディングだ。
近代では金融システムが銀行や信用金庫、保険会社、互助会など、専門組織化、営利目的化していき、無尽講は必要がなくなった。
しかし、営利目的ばかりでは、うまくいかないこともある。
担保がないと借りられなかったり、与信審査が通らなかったりして、新しい事業が始められないことなどだ。
そこを補完するものとして、現代に登場したのがクラウドファンディングである。
ただしクラウドファンディングの多くは寄付であって、融資ではない(投資型もあるが割合は少ない)。
ちょうど1年ぐらい前に、クラウドファンディングでsofo cafeの資金調達をした。
自分がやってみて実感するのは、支援してくれた人がクラウドファンディングを実施すれば、こちらも支援しなければいけないということだ。
その時の経済状況によるが、心情としては支援してくれた額より、多く返したいと思う。
つまり利子がつくというわけだ。
もちろん誰もがクラウドファンディングを実施するわけではないが、それにしても1年の間で飛躍的に増えた。
このまま増え続ければ、いずれ寄付というよりは、融資を受けたようなことになるのではないかと思う。
それは無尽講に似ている。
ここで話は少し変わるが、空き家などをDIYリノベーションする時の常套手段として、人手が必要な作業を、体験ワークショップとして募集することがある。
確かに自分の家を模様替えするときなどに、体験が役に立つ可能性はあるだろうが、実質的にはボランティアだと思う。
以前、あるアイデアコンペに応募するために、世界遺産のことを調べたことがある。
その時、国内の世界遺産の一つ、白川郷には「結い」や「合力(こうりゃく)」という風習があるのを知った。
あの特徴的なかやぶき屋根の葺き替えのために、お互いに手伝うことを言う。
sofo cafeや、その前にリノベーションしたco-ba kamaishi marudaiでは、やはりDIYを手伝ってもらった経緯があるが、前述のクラウドファンディングと同じように、手伝ってくれた人が、人手を必要とすれば、僕も手伝いにいかなければならないだろう。
遠野物語には、こういう話がある。
遠野物語八十六より
字下栃内に普請ありて、地固めの堂突(どづき)をなす所へ、夕方に政の父ひとり来りて人々に挨拶し、おれも堂突をなすべしとして暫時仲間に入りて仕事をなし、やや暗くなりて皆とともに帰りたり。
あとにて人々あの人は大病のはずなるにと少し不思議に思ひしが、後に聞けばその日亡くなりたりとのことなり。
堂突とは家を建てる前に、地盤を突き固めることで、人手がいる作業であるらしい。
政の父という人が、この時にはすでに死んでいたはずなのに、普請(工事)の現場に現れて、手伝っていったという話だ。
遠野物語は聞いた話をそのまま書き記しているだけで、なんの意味があったのかとか、解釈の類はないのだけど、この話については考えられることがある。
自分が家を建てる時に、村のみんなに手伝ってもらった恩を返し切れていなかったので、成仏する前に手伝いに行ったということではないか。
いずれにしても、堂突を手伝うことは、単なる親切を越えた、義務に近いものであったと推測される。
白川郷の結い、合力と同じことだ。
こうして考えてみると、クラウドファンディングやDIYリノベーションは、新しい時代の流れのように思うが、実は昔からあって、現代では一時的に途絶えていた社会システムだったのだ。
シェアリングエコノミーの概念も、やはり昔からあることだと言われている。
21世紀に入り、IT革命によって時代が短い間に大きく変化しているような印象はあるが、長いスパンで見てみると、さほど変わっているわけではないのかもしれない。
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