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カモミール


ただいま。
誰もいない空間に呟く。電気をつけるとテーブルの上に目がいった。
今朝は無かったはず…花瓶にカモミールの花が15本ほど。

直人…覚えてたんだ。
15本のカモミールの花束には〝ごめんなさい〟って意味がある。っていうか、〝ごめん〟の三文字くらい口から出せないものなのかな?
まぁ、でも。
平和主義の事無かれ主義。いつも周囲には温和そうに見せてる直人。そのくせプライドは高くて、
ちょっと人を見下してるところがあって。そんなんだから、何も向こうからのアクションは無いと思っていた。
それならもう私のことは大事じゃないってことで。
離婚も覚悟していた。
家に帰ってこない間、きっと直人なりに色々考えていたんだろう。

ちょうど1週間前の事だ。

〝ぶっ殺すぞテメェ!!!!私に何したって大丈夫だと思ってんの?私が何も言わないとでも思った?傷ついてないとでも思ってるわけ?ふざけんなよ!〟

この頃ずっと感じていた。一緒にいても心が繋がらない感じ。何をしても何を言っても、何だかあしらわれたり、スルーされたり。私の心にはポッカリと穴が空いていた。
怒鳴ったきっかけは些細なことだったかもしれない。ただ、私には直人の態度や言動がもう限界だった。

積もりに積もった言葉は止まらない。

〝私にだけいつもそんな態度じゃない、人を選んでるよね?!私が大人しいから?素直に言うこと聞くから?楽な女だから結婚したの?ねぇ、ちゃんと私の目を見て。私ずっと寂しかったんだよ?一緒にいるのに孤独だったし虚しかった。いつもテキトーにあしらわれて、ちゃんと向き合ってくれなくて、
直人の考えてること何も分からなくて。なんでそんな面倒くさそうな顔するの?直人のそういう所、私だいっきらい!私の事なんて見下してるんでしょ?いつも耳障りの良いことばっかり言って、嫌な事からは逃げる。そういうの、優しさでもポジティブでも何でもないんだよ!こんな風に繋がりが感じられない関係なんて、一緒にいる意味ある?今の私は、直人のこと信頼できてないし、一緒にいても安心できてないんだよ?…ねぇ、私のことどう思ってるの?私は直人にとって人畜無害で毒にも薬にもならない存在なわけ?!〟

直人は黙ったままだった。目も合わさず、何も言わず、ふらりと立ち上がって、そのまま家を出ていった。

やっぱりな。逃げるんだ。
表面上は仲良し夫婦。穏やかで良い旦那さんねってよく言われる。けど、こうやって嫌なことや面倒なことには向き合おうとしない。
特に怒りの感情は表に出すことを良しとしないし、波風立てられる事を嫌がる。
私は、怒りって悪いことじゃないと思うんだ。
時に怒りも悲しみも苦しみも、本音をぶつけあってこそ、お互いを理解できるし、そこからお互いの
内側をさらけ出せる信頼感や安心感が生まれると思う。波風立てずにやってくことが、必ずしも良い事とは限らない。現に今の私は表面だけ整ってるフリしたこの関係に不満がある訳で。
直人の態度はもちろん、直人に従って黙ってきた
自分自身にも怒りが沸いたのだ。

一旦ぶち壊さないといけない。
苦しくても悲しくても怒りが収まらなくても。
たとえ離婚になったとしても、ここで波風立てるのは今の2人にとって必要なこと。そう感じたのだ。
単に感情をぶちまけたかった訳じゃない。心の奥では直人を信じてるし、愛している自分がいる。

1週間待とう。1週間待って、何もアクションがなければ、もう信頼して関係を築いていくことは出来ない。その程度の関係だったんだ、そう思って離婚しよう。そう決めていた。

椅子に腰掛け、15本のカモミールを見つめる。

カモミールは、私の好きな花だ。
黄色で丸くふんわりした花の中央に、白い花びら。ふわふわと風に揺れる可憐で繊細なその見た目からは想像できないのだが、カモミールは踏まれても
踏まれても力強く育つ。その姿から、〝逆境から
生まれた力〟なんて花言葉もあるくらいだ。

今回のことを機に、お互い一緒に成長していけるだろうか。人間臭く、泥臭く、上っ面の綺麗事に惑わされずに愛し合っていける関係に。
これから先だって、きっといろんな事が起こる。
いい時ばかりじゃない。大変なこと、辛いこと、
何が起こっても2人でなら一緒に乗り越えられる。
そんな強さを育んでいけたら…

きっと、出来る…
だって目の前にカモミールがあるんだもん。

玄関に人の気配を感じた。
そおっと、ドアを開けた直人と目が合った。

〝沙季………ごめんな…〟
〝ううん。…おかえり〟




優しいパンクお姉さん
〝カモミール〟より。

♪こちらより曲をお聞きください♪


♪優しいパンクお姉さんについてはこちらから♪

https://note.com/miyayu62_5/n/nd5c2af5604de






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