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〝嬉しかったなぁ。とぉーっても、とぉーっても
嬉しかったんだぁ。私も一緒にいたんだよ。
ここにいて、一緒にお祝いしたんだよ。とぉーっても幸せな気持ちだったんだよ。〟

ふわっと胸に広がる幸せな感覚…

待って!!そんなハズ無いよ、だって私、
まだ生まれてないじゃん!!

淡いピンクのウェディングドレスの母と、
淡いグレーのタキシードの父がシャボン玉に包まれ微笑んでいる。
初めて見た両親のウェディング写真を前に聞こえてきた不思議な声と不思議な感覚。私はまだ小学生にもなってなかった。それでも、自分がまだ生まれてない事くらいは理解できていた…
ほんのちょっと怖くなっていつしか記憶の奥底にしまいこんでいた。

思い出す日が来るなんて思ってなかった。
あの時までは…


〝4ヶ月。〟
一言答えて母はそれ以上何も話さない。
3人に沈黙の時間が訪れていた。
テレビの音だけ聞こえてはいるが、もはや何の番組かも頭の中に入ってこない。

夏休みの昼下がり。
弟から母への唐突な質問だった。
〝お父さんと出会ってからどのくらいで結婚したの?〟
その答えが、〝4ヶ月〟だったのだ。
たぶん、私と弟は今同じ事を考えている…
〝うちの親に限ってそんな事…短すぎる…〟


どれだけ沈黙の時間が続いたのだろう
買い物行ってくる、と母は出掛けていった。

〝まじか…〟ポツリと弟が口を開く。

〝確かさ、お母さん23で結婚して24で私を産んでるんだよね。結婚記念日が11月、1月でお母さん24歳になって…私が…5月に…
いやいやいや待て待て待て計算が合わない!
記憶違い?!結婚したの22だったとか!〟

父も母もどちらかというと大人しいタイプで、あまり社交的ではない。父の友人なんて見たことないくらいだ。そんな2人が出会ってから4ヶ月で結婚したなんて信じられない。
衝撃的すぎて混乱している。

そうだ!母子手帳!
事実を確認したくてタンスの引き出しを開けた。

机の上で淡いピンクのウェディングドレス姿の母と淡いグレーのタキシード姿の父がシャボン玉に包まれながら微笑んでいる。
母は何故か白のウェディングドレスは着ていないらしい。

5月26日午前5時26分生まれ、私の母子手帳。
勢いよくページをめくる。
やはり母が結婚したのは、23歳の時だった。

私は〝できちゃった子〟だったのだ。

できちゃってからの結婚なんて、無かった時代だったはず。〝できちゃった結婚〟なんて言葉が流行ったのはちょうどこの頃、私が高校生くらいの頃じゃなかっただろうか。まさか私自身が〝できちゃった子〟だったなんて…

どれだけお互い両親に怒られたか、反対されたか。周りの目は厳しかっただろうに。

だからなのか…。
私達が幼い頃両親のケンカが多かったのも、
おばあちゃんと仲が悪いこともそれなら納得できる。もしかしたら中絶だって考えたかもしれない。
一体どうやって結婚まで漕ぎ着けたんだろう。

一気に色んな想像が頭の中を駆け巡って目眩を起こしそうだった。
弟も1人になりたいのか、その場から静かに離れていった。

私はそのまま座り込む。

相変わらず若い頃の2人がこちらを見ていた。

ふと、まだ小学生になる前くらいの記憶が甦った。
初めてこの写真を見た時、
〝私、一緒にいた。一緒にお祝いした。〟
と不思議な声がしたことと、胸の奥に広がった幸せな感覚…

改めて写真に近づいてまじまじと見た。

…いる
私、お腹の中に…いたんだ…
この写真に…一緒に写ってる…

あの時の不思議な声は
紛れもなく私自身の声だった…
全身で感じていたんだ、両親の喜びを。
全身で覚えていたんだ、生まれることが出来る、
その幸せを。

全てに気付いた瞬間、涙が溢れてきた

ありがとう、
産むって決めてくれて。
写真に向かってそう呟いた

あの出来事からずいぶん年月が経った。
今年で40歳。
今まで1度も〝年を取りたくない〟と思った事がない。
〝生まれることが出来た〟
〝今生きる事が出来ている〟これ以上の幸せは無い、と思っていて。

これから先どれだけ年を重ねていっても
1年で1番大好きで特別な日は、誕生日って
言ってると思う。


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