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黒と私


黒。なんで黒?
手にしたイヤリングを見つめている。
似合わないよ黒は。買うの?ホントに?
欲しい。可愛い。このイヤリングしてみたい。

 
最近また黒に惹かれ始めている。
長いこと黒は避けてきたのに。

 

 大学3年の秋。ずっと明るくしていた髪を真っ黒にして教室へ入った。

〝いや、それ違う!〟

私を見つけるなり友人が放った一言。

〝友梨ちゃんはさ、髪の色明るい方が似合うんだからー!〟
〝黒瀬ホント黒が似合わないよな!〟

 
やっぱりか。
何故か黒が似合わないとよく言われる。

 黒ってどんな色も合わせやすいし、無難な色のはずなのに。
誰にでも似合いそうなのに似合わないなんて事あるのかな。
いや、あるんだな、これが。

 

小学校の高学年くらいから黒っぽい服を選ぶようになった。
母親は良い顔しなかったけど。女の子らしく赤とかピンクを着て欲しかったようだ。

友達とショッピング行って黒い服を手に取ると、
それはない(笑)って顔される。

成人式の着物選ぶ時も、
〝1番着てほしくないのは…黒ですね〟と店員さんに言われた。

とにかく黒で誉められたことがない。
黒に心惹かれるのだけれど、気づいたら黒を選ぶことをしなくなっていた。

似合わないんだ、と言い聞かせて。

それに、黒ってあまり良いイメージがない。

カラーセラピーなんかで検索しても、死をイメージするとか闇だとか、黒い服ばかり着る人は心を閉ざしている、隠し事がある、犯罪者のイメージとか。
女性は黒ばかりだと恋愛運がなくなるとか。暗い、重い、地味。

 そんなのも黒を遠ざける理由として取り入れていった。

明るい色、淡い色の服を選ぶ。バックや靴だって暗い色を選ぶならネイビーかブラウン。

私の周りに黒はほぼ存在しなくなった。

 
それと同時に自分を偽るようになっていった。

みんなのイメージ通りの私じゃないと、受け入れてもらえないように感じて。
優しそう。穏やかそう。怒らなさそう。
そんな人間に。

ある時〝マジで?〟と言ったら〝友梨ちゃんがそんな言葉使うなんて〟と言われた。
またある時は〝友梨ちゃんって笑ってキツイ事言うよねー〟なんて言われたり。

おかげで口数が減っていった。不自然にいつもニコニコするようになった。
ポジティブでキレイな言葉だけを言うように気を遣うようになった。

 

〝私〟はどこへ行ってしまったんだろう。

 

そんな風に私を偽り続けたまま、就職して、
転職して、いつの間にか10年くらい経った。

相変わらず明るめの色ばかりの毎日だったが、
ふと黒のセーターを買ってしまった。
家の近所でしか着ていなかったけど、
意を決して黒のセーターで出勤してみる事にした。

〝あら!珍しいじゃない、いつも明るい色着てるのに!〟

〝黒似合わないって言われるんですけどね~、
たまにはと思って〟

〝似合ってるわよ!素敵よ!〟

 

初めて黒で誉められた。
黒が似合う年齢になったんだろうか、
大人になったんだろうか。
嬉しい気持ちよりも信じられない気持ちの方が
大きい。
やっぱり私に黒なんてという気持ちも捨てきれず、徐々にまた黒から遠ざかっていった。

 

 

30代も後半に入った。
なんとなく最近明るい色の服を着ると違和感を
感じる。
年のせいか。好みが変わったのか。何なのか。

 

買ってきたイヤリングを見つめている。
台紙からイヤリングを外して、鏡を見ながら耳に
つける。

…。


可愛い。黒、悪くないじゃん。似合うと思うよ。

 
こうやって黒に心惹かれるのは何故なんだろう。
久々に〝黒〟で色々検索してみる。

黒の良いイメージは、高級感、洗練されている。
クールで都会的。威厳がある。個性的。
ミュージシャンやアーティストが好む色。

 あまり自分と重ねてもピンとこない。

 
あ、こんなのもある。
黒は全ての色を含む色。全ての可能性を持った色。無意識、未知なるもの。
自分自身の未知なるものを探求していく。
まだ分からないことを信じること、自分の可能性は無限だと信じる強さがある。

 
ミュージシャンやアーティストが黒を好むのは、
自分の内側を見つめる為なのかもしれないな。

どんな想いも感情も言葉も、それがどんなに酷かろうが醜かろうが光を当てる。
決して楽しいだけの作業ではない時もあるだろう。
苦しみや痛み悲しみ、見たくないもの避けたいものに向き合って手を差しのべる。
偽りがないからこそ、その人の外側に出た表現は
多くの人の心を揺さぶる。

 
自分を知りたい。見つめたい。取り戻したい。
そういう時、黒に心惹かれるのかもしれない。

 
再び鏡の中の自分とイヤリングを見つめる。

 
黒には、強さと安心感を感じる。
私は私なんだという内側からくる自信。
どんな自分も私なんだと、全てを受け入れてくれる安心感。

 

 

不必要に笑う必要なんてない。

キレイな言葉を選ぶ必要なんてない。

汚い言葉が必要な時もある。

 私は自分の強さを知っている。か弱くはない。

みんなが思うような優しい人間じゃない。
冷たいところもキツイところもある。

ダメなところも出来ないこともある。
完璧な人間じゃない。

イライラしたり、怒ることだってちゃんとある。

傷つくことだって泣くことだってある。

人を嫌いになることも、傷つけることもある。

人に合わせてウソばっかりで生きてきた。

あまり人に見せることは無いかもしれないけど。
色んな感情を押さえてしまう時もあるけど。

 

それも全部、私。

 

 

苦しかったんだ。
自分で自分を認めてあげることが出来なくて。自信なくて。
他人の言葉ばかりに気を取られて。

 

私は、みんなにウソついて生きてきたんじゃなくて

私に、ウソついて生きてきたんだ。

 

 

真っ黒な自分の内側に、
ようやく光を当てられた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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