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「冬来たりなば春遠からじ」―トルファン、ビートルズ、パレスチナ、「朝は必ずやってくる」

故郷の人々は 老いも若きも
桑の実が落ちるように 涙を流す
いつ夜が明けて 太陽が顔を出すのか
長くて暗い トルファンの夜

いつ朝になり 黄金の光がさしてくるのか
「来ないかもしれぬ」と案じて 騒ぐな
空は少しずつ明るくなり 夜が明ける
朝は必ずやってくる トルファンの夜」
(―アブドゥハリク(萩田麗子『ウイグルの荒ぶる魂』より)

ウイグル人女優 ディルラバ・ディルムラト https://www.sidoarjokini.com/hiburan/1432900394/dilraba-dilmurat-artis-cina-pernah-sukses-jadi-spg


 これは清朝支配の下に置かれたウイグル人の心情を表現したものだったが、同様な想いは現在イスラエルの攻撃を受けるガザの人々にも共有されていることだろう。作家の瀬戸内寂聴さんも東北被災地における説法の中で「無常」を説き、被災者たちに「物事は流れていきます。いまがどん底と考えればこの状態も常ではなく、そこに希望が見出せます」と語っていた。

瀬戸内寂聴さん 2017年5月5日 岩手県二戸市天台寺で https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/80369/2


 ビートルズのナンバーにも似たような情感を歌ったものがある。ビートルズのアメリカでのデビュー・アルバム『Meet The Beatles』は1964年1月20日に発売され2月15日付けの『ビルボード』紙で1位になり、17週連続で1位を続けた。ケネディ暗殺、ベトナム戦争、さらに米ソ対立の閉塞された時代に、ビートルズの自由や愛の情感はアメリカの若者たちの心をあっという間に捉えていった。64年2月7日に初めて訪米し、9日に出演した「エド・サリバン・ショー」は視聴率72%を記録した。

ビートルズ「エド・サリバン・ショー」 https://www.boardwalk2018.jp/product/440


 悲惨な戦争がある現在の時代状況は、ビートルズがデビューした頃に重なるようだが、自由と平和と愛のパワーで満たしてくれるビートルズの歌は将来への希望を表現するものでもあった。

ヒア・カムズ・ザ・サン https://blog.goo.ne.jp/mh0914/e/d7cbc9e96f0e64d3e7450fe7d9cd8de6


〔ヒア・カムズ・ザ・サン〕
Here comes the sun, here comes the sun
And I say it's all right
ほら、太陽だ。お日様の光だ
もう大丈夫。僕はつぶやく

Little darling, it's been a long cold lonely winter
Little darling, it feels like years since it's been here
ねえ、長くて孤独な冬だった
そう、何年もの間、そうだった気がする

Here comes the sun, here comes the sun
And I say it's all right
ほら、太陽だ。暖かい光だ
もう大丈夫。僕は声を上げる 和訳はhttp://sate-konokyokuwa.blog.jp/2018-10-31.html より

 ケネディ大統領が暗殺された1963年には日本の仏教哲学者の鈴木大拙(1870~1966年)がノーベル平和賞候補となった。大拙が英文で「ザ・ベル・オブ・ピース・アンド・リバティー(平和と自由の鐘)」と揮毫した鐘が石川県白山市美川北町の徳證寺(とくしょうじ)にある。

アマゾンより


 平和と自由は、ケネディ暗殺後、ビートルズに心酔したアメリカの若者たちが切に求めたものだった。今の世界はイスラエルの極右の動静に見られるような偏狭なナショナリズムが台頭し、戦争など暴力が覆い、ケネディ後の時代に似通っている。ジョン・レノンは日本で生活し、鈴木大拙の著作や白隠、仙厓の自由奔放な生き方に共鳴していたと見られている。音楽の中に見られる愛、自由、平和の情感はイスラム神秘主義(スーフィズム)の中にも見られるが、時代はビートルズ的なものを再び待望しているのかもしれない。

炎を熾(おこ)すこと無しに、
どうして光が得られよう。
何をするにも導きが必要となる、
希望という名の導きが。
―イスラム神秘主義の詩人ルーミー(1207~73年)

http://levha.net/rumi/1224/


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