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科学者アインシュタインの最後の訴えと、戦争の空しさを説くプレヴェール詩集

 1955年4月11日に科学者のアルバート・アインシュタイン(1879~1955年)は「ラッセル=アインシュタイン宣言」に署名した。アインシュタインが他界したのはその直後の4月18日だったから著名な科学者の最後の訴えだった。

ラッセル=アインシュタイン宣言 https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=53062   より


 「ラッセル=アインシュタイン宣言」は「われわれの前には、幸福、知識、知恵の不断の進歩がある。争いを忘れることができないという理由で、われわれは死を選ぶのであろうか。われわれは人類として、人類に向かって訴える。あなた方の人間性を心にとどめ、他のことを忘れよ。もしそれができるなら、道は新しい楽園に向かって開けている。もしできないなら、あなた方の前には全面的な死の危険が横たわっている。(岩波小辞典『現代の戦争』2002年)と核戦争が断じて起こってはならないことを呼びかけた。
 広島・長崎の原爆投下をはじめ、大規模な悲惨な戦いであった第二次世界大戦が終わると、世界の人々に「平和」は強く意識された。

 フランス映画不朽の名作「天井桟敷の人々」(1945年制作・公開、日本公開は1952年)の脚本を書いた20世紀最大のフランスの民衆詩人と言われたジャック・プレヴェール(1900~77年)は平和を強く訴えた人だった。プレヴェールは日本でもあまりに有名なシャンソンの名曲「枯葉」の詞も書いている。プレヴェールの詩は平易で、わかり易く、『プレヴェール詩集』(岩波書店)の翻訳者の小笠原豊樹氏はその解説文の中で「親しいともだちのように微笑を浮かべてあなたを待っている」と書いている。下は「枯葉」の冒頭の部分だが、若い頃の恋の情感を思い出すようだ。

https://natalie.mu/eiga/film/132899  より


あなたは覚えているかしら
仲が良かった幸せな日々を
あの頃は今日よりも 人生は美しく
太陽は明るかった


 1900年に生まれたプレヴェールは、第一次世界大戦、第二次世界大戦、ヴェトナムがフランスからの独立を目指したインドシナ戦争(1946~54年)、アルジェリア独立戦争(1954~62年)などフランスの数々の戦争に接した。戦争や破壊、抑圧に反対し、戦争の犠牲になる子どもや女性に対する同情を寄せ、貧しい人々に共感をもった。また、戦争の声なき犠牲者である動物や植物の味方をプレヴェールは自任していた。戦争に対しては厳しい批判の表現を向け、戦争が絶えない現代の世界にも生きる戦争批判のメッセージを残している。

「戦争」(プレヴェール作)
「きみら木を伐(き)る/ばかものどもめ」「鳥はとび去り/きみらそこに残って軍歌だ/きみらそこに残って/ばかものどもめ/軍歌だ 分列行進だ。」

 武力を蓄え、軍事的に強力な国と同盟することによって平和が保たれると考える政治指導者が世界では後を絶たない。第二次世界大戦以降の世界の平和は核戦力の均衡の上に平和を成立させるという実に危ういものだ。その通り危ういことは、ロシアのプーチン大統領がソ連・ロシアが蓄積した核兵器を使用しないことはないなどと、核兵器で恫喝し、イスラエルでもガザを核兵器で攻撃することを口にする指導者がいる。武力による平和はそれを使いたいという欲求にかられることになり、戦争をより悲惨にする。

 プレヴェールには“Si tu veux la paix, prépare la guerre”──「君が平和を欲するならば、備えよ戦争に」という危うい「積極的平和主義」を皮肉り、“Si tu ne veux pas la guerre, répare la paix” ───「君が戦争を欲しないならば、修繕せよ、平和を」という下のような詩がある。

「踊れ、すべての国の若者よ。
 踊れ、踊れ、平和とともに。
 平和はとても美しく、とても脆い。
 やつらは彼女を背中から撃つ。
 だが、平和の腰はしゃんとする、きみらが彼女を腕に抱いてやれば。
 もしもきみらが戦争を欲しないならば、繕え、平和を」。

https://ivory.ap.teacup.com/editorsmuseum/472.html

 プレヴェールの代表的シャンソンにはやはりイヴ・モンタンなどが歌った「バルバラ」があり、バルバラという女性に呼びかけながら、戦争の空しさや悲惨さを説いている。

バルバラ(プレヴェール作 抜粋)
  戦争のなんという愚劣さ
  君は今 どうしているのか
  この、鉄の
  火の はがねの 血の雨のしたで
  そして君をいとおしげに腕のなかに
  抱きしめていたあの男は
  死んだ 行方不明 いやまだ生きているのか
  おお バルバラ




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