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シファ病院への「精密な攻撃」という虚偽と「優情」に欠けるイスラエル

 イスラエル軍がガザ最大のシファ病院に「精密な攻撃」を仕掛けていることを明らかにした。「精密な攻撃」というのは患者や避難民に対して人道的な配慮を行いながら攻撃していると言いたいのだろうが、病院では電力の供給が断たれ、医療活動がほぼ不可能になっている。たとえ、ハマスの戦闘員が病院内にいたとしても、病院への攻撃自体が国際人道法、あるいは文民の保護を訴える戦時国際法に違反するもので、断じて許されるものではない。

 1991年の湾岸戦争に至る過程においてアメリカ議会の公聴会でアメリカはクウェートの15歳の王族の少女にイラク兵が保育器から赤ん坊を取り出し、床に放置し、死なせたと偽証させ、イラクの悪辣なイメージを喧伝していった。この捏造についてはオリバー・ストーン監督のドキュメンタリー映画「もうひとつのアメリカ史」などでも紹介されている。シファ病院では電力不足などで、保育器からとり出すことを余儀なくされた新生児や腎臓透析患者が次から次へと亡くなる事態となっている。サダム・フセインの非道な行いの事例の一つとしてアメリカが世界に訴えたのと同様なことを、現在、イスラエルが行っている。

「患者襲うスナイパーも」ガザの病院“包囲”院内の惨状「地下にハマス」関係者は否定(2023年11月12日) https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=tfpTMspzBoA


 作家の堀田善衛は、人間は共に生きるためにあたたかい心(有情)と共に生きる社会のルール(友情・躾)を合わせて「相手の痛みや悲しみを感じ取る心=優情」を得ると語っていた。「優情」は堀田善衛の造語だったが、病院攻撃に見られるように、イスラエルに「優情」が欠けるのは、その国家建設の理念であるシオニズムにも影響されるものだ。シオニズムはパレスチナにユダヤ人の国をつくろうとする思想や運動であったために、他民族に対して極端に排他的で、冷酷な姿勢をとるようになった。

 イスラエルのシオニズムというナショナリズムは、『文化と帝国主義』でエドワード・サイードが否定した単一民族による単一の言語を基盤とする近代国家のフィクションであり、また中心が優位であり、周縁が劣位とする二項対立的な発想をもつものだった。実際、イスラエルでは国民の20%を占めるアラブ(=パレスチナ)人たちは就職、教育などで顕著な差別の下に置かれている。イスラエルの極右勢力はアラブ系の人々の国籍をはく奪することを主張するが、かつてヨーロッパ国家で無国籍にされたのは「ユダヤ人」たちで、イスラエルの極右はかつてヨーロッパでユダヤ人がされたことと同様なことをパレスチナ人たちに対して行うとしている。


 イギリスの映画監督のケン・ローチ氏は、イスラエル国家の根本にはパレスチナ人に対する犯罪、差別や抑圧があると主張する。ローチ監督によれば、イスラエルとパレスチナの紛争は世界でも特別な位置を占める。というのも、イスラエルは人種主義の国であり、欧米諸国によって軍事的、財政的に支えられ、それゆえ民主主義や人権を説く欧米諸国がイスラエルによる人権侵害には目をつぶることは顕著な偽善であるとローチ監督は説いている。

ロンドンのガザ反戦デモとケン・ローチ監督 https://prruk.org/ken-loach-on-palestine-dont-be-distracted-just-tell-the-truth/


 ハリウッドの女優ナタリー・ポートマンは、2018年1月に成立したイスラエルの「国民国家法」が人種主義であり、誤りであると主張している。「国民国家法」は、イスラエルをユダヤ人の国家と規定し、その言語であるヘブライ語を公用語とするものだが、イスラエル国内には人口の2割に近いアラブ人や、1.6%のドルーズ派の人々もいて、ポートマンによれば国民国家法は彼らを事実上「二級市民」として扱うものだ。

 イスラエルではこうした差別法などで、パレスチナ人に対する配慮に著しく欠く国となり、パレスチナ人の病院を攻撃しても平気でいられるような、民族浄化を行ったナチズムのドイツのようなメンタリティーをもつ国になってしまった。

イスラエルの国民国家法は人種主義的性格をもっているーナタリー・ポートマン https://twitter.com/RT_com/status/1073650077036670979


 ユダヤ教とシオニズムは旧約聖書の教えにルーツをもつが、ユダヤ教は宗教であり、シオニズムはイデオロギーである。ユダヤ教はすべての人間は平等であるというヒューマニズムに基づき、それゆえアメリカやイギリスでも多くの信徒たちが存在する。旧約聖書「レビ記」には「あなたたちの中にいる外国人は、あなたたちの間で生まれた人のように扱いなさい」とある。なぜなら私たちユダヤ人はかつてエジプトで外国人であったからだとユダヤ教では考える。このような人道主義的な宗教倫理はシオニズムの考えとは真逆なものである。シオニズムによるイスラエルの「民主主義」はシオニストのためのものであり、パレスチナ人をも対象とする民主主義ではない。シオニズムは極端にパレスチナ人嫌い、植民地主義、人種差別主義で、無慈悲な性格をもっている。


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