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ダルビッシュ投手の「200勝」とイランの詩的世界

 サンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有投手が日米通算200勝を上げた。ダルビッシュ有選手の投ずる変化球はまるでピンポン玉が空中を浮遊するかのようだ。イラン人は優れた巧の技をもっている民族で、彼らのつくる絨毯、装飾皿、タイルなど工芸品は精緻を極める。イラン人の父親をもつダルビッシュ投手にはそのようなイラン人のDNAを感じてしまう。

ペルシア絨毯を織る https://www.chaldeannews.com/2023-content/2023/1/1/persian-rugs-the-timeless-appeal


 ダルビッシュ投手は様々な社会貢献を行い、公式戦で1勝するたびに羽曳野市に10万円を寄付する「ダルビッシュ有子ども福祉基金」を2008年から始め、ダルビッシュ投手の福祉基金の奨学金で大学を卒業した養護施設出身の若者たちもいる。ダルビッシュ投手の母親の郁代さん「有はラッキーにも今の場所にたどり着いた。自分に余裕があれば、そうではない人を助けるのが人としての道だ」と語っている。(産経新聞・昨年3月15日)郁代さんの発言も相互扶助を説くイスラムの教えに通底するものがあるように思う。

強化試合で湯浅京己と話すダルビッシュ(写真:アフロ) https://jisin.jp/sport/2187415/


 また、ダルビッシュ有投手は、2007年から水不足に苦しむ国に水支援を行い、「ダルビッシュ有 水基金」を起ち上げ、1勝するごとに10万円を寄付、途上国の井戸掘り、水をくみ上げるポンプ、貯水タンクなどの整備に協力してきた。ダルビッシュ投手は「野球を通じて社会、そして世界に何かできないか。そんなことを考えた時、できることをまず始めてみようと。この小さな想(おも)いがやがて多くの人たちを、そして自分自身をも勇気づけていってくれるようになればいいと思います。」と述べている。(朝日新聞、昨年3月11日)「生きていく上で何より水が一番大事」と語り途上国に安全な水を届けようとするダルビッシュ投手の姿勢は、「武器より命の水を」と言って井戸の掘削など清潔な水の提供によってアフガニスタンの人々の命を救おうとした中村哲医師の生き方を彷彿させるようだ。

平凡社のツイッターより



 昨年WBCの第一次ラウンドが終わると、チーム最年長のダルビッシュ投手は成績不振だった選手を念頭に「野球なんて気にしても仕方ない。人生の方が大事ですから。野球くらいで落ち込む必要ない。自分も含めて休みもあるので、凄く楽しいことしたり、おいしいご飯を食べたりしてリラックスして欲しい」と語った。ダルビッシュ投手はますますペルシア(イラン)の詩人という気がしてくる。野球の道を究める求道者のような風格がある。

明日のことは誰にもわからぬ、
明日のことを思うは無益なこと。
心が覚めているのなら、この一瞬を無駄にするな、
命の残りは限りあるものなのだから。
オマル・ハイヤーム/岡田恵美子訳『ルバイヤート』

友よ明日を思い煩うなかれ
このひとときの楽しみをとれ
明日われらはこの古き住居(すまい)を去り
七千年の故人と共に旅をせん(陳舜臣訳「ルバイヤート」から)

日本の古本屋より


イラン野球の普及にはダルビッシュ有選手も野球道具の寄贈を父親のファルサさんを介して行っている。イランで野球の指導をしたことがある色川冬馬氏は野球でもイランの親日感情を垣間見たことがあったようで、次のように語っている。

「僕はイラン人なんか誰も知らないかったし、彼らだって僕が何者かなんて分からなかったと思います。でも、日本人という理由だけでおもてなしを受けられる。これはどこかの大先輩が何かを彼らに残したということ。この辺りから、僕は次世代の子がもっといい待遇をしてもらえるようにと考えてやってきました」

https://the-ans.jp/wbc/306829/2/

 
 現在イランの野球人口は「500人いればよい方」(色川冬馬氏)だが、ダルビッシュ選手の活躍に触発されて競技人口は増えるかもしれない。日本にもイランの野球振興を目指す「イラン野球支援プロジェクト」がある。イランに行き、ダルビッシュ投手の年俸の話をするとイラン人たちは一様に「ええ~っ」と信じられないという表情をする。ダルビッシュ投手の活躍もイラン人の良好な対日感情の形成に貢献しているに違いない。アメリカとは良好な関係ではないイランの血が流れるダルビッシュ投手だが、その目覚ましい活躍にアメリカとイランの外交関係などを意識しながら観戦するアメリカ人はほとんどいないだろう。

これだけの変化球を投げるのは今の言葉で言えば「えぐい」と言うのだろうか? https://www.youtube.com/watch?v=OhJRmqHIU5E



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