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ウクライナ戦争に知恵を与えるカタルーニャの「鳥の歌」

 明日でロシアがウクライナに侵攻してから1年が経つ。ロシアのプーチン大統領は、侵攻に先立って2月21日、親ロシア勢力が支配するウクライナ東部の2州の独立を承認した。プーチン大統領の「ウクライナという国家は存在しない」という論理は、イスラエルの「パレスチナという国は存在しなかった」という理屈と似ている。アメリカもこうしたイスラエルの姿勢を容認してきたが、それを言い出せば国際社会の秩序は成り立たない。第二次世界大戦後に成立した国家はイスラエルも含めてそれ以前には存在しなかった。

 ウクライナ出身の歌手で、ウクライナの民族楽器バンドゥーラ演奏家のナターシャ・グジーさんは、6歳の時に父親が勤務していたチェルノブイリの原発事故で被曝した。2000年以来日本語を学び、ウクライナの民族衣装をまといながら日本で演奏活動を続けている。彼女が作詞・作曲した「ねがい~いつまで消えないように」では「戦争はいらない!世界中に平和を!音楽が私たちをつないでいく 奇跡の響きが心を満たしていく」と歌われる。まるで現在の祖国の窮状を訴えているかのようだ。
 彼女の演奏する曲目に「カタルーニャの鳥の歌」がある。美しいスキャットによる演奏だ。https://www.youtube.com/watch?v=0fBS_HEvJXs

ナターシャ・グジーさん https://www.facebook.com/.../d41d8cd9/1811922355618947/

 カタルーニャ語は、1936年に成立したフランコ独裁政権の下では使用が禁止されていた。世界的なチェリストであったカザルスもフランコの弾圧政治を嫌って1939年にカタルーニャからフランスに逃れた。カタルーニャ語の使用が認められるようになったのは、1975年にフランコが没して1978年にカタルーニャ自治憲章でカタルーニャ語が公用語になってからのことである。カザルスは、有名な1971年10月24日の国連総会での演奏会で「鳥の歌」を演奏したが、「カタルーニャでは鳥はpeace, peace, peaceと鳴きます」と聴衆に向かって語り、「この歌はバッハやベートーヴェンなど偉大な音楽家たちが愛し、耳を傾けたメロディーであり、カタルーニャの魂なのです。」と訴えた。

カタルーニャ地方 https://www.pinterest.jp/pin/488992472040111322/


 カタルーニャはキリスト教文化とイスラム文化が混じり合った共存の舞台でもあった。

  オーリヤックのジェルベール(940頃~1003年)は、フランス中南部オーベルニュ地方オーリャックで生まれた。後にフランス人として初めて教皇(シルウェステル2世、在位999~1003年)になる人物で、カタルーニャ地方で、アラブの諸学を吸収し、それらを多くの弟子たちに伝えた。
 ジェルベールは、西欧世界でアラビア数字を最も早く習得した人物の一人であり、当時のヨーロッパでは解けなかった数式に解を与え、驚嘆をもって周囲から見られるようになった。

 ジェルベールは、アラビア語の学習によって獲得した数学や天文学などアラブの科学をフランス北部のランス大聖堂の学校などで教育者としてヨーロッパに伝達し、また神聖ローマ帝国のオットー3世(在位983~1002年)に政治的アドバイスを行うなど、10世紀後半のヨーロッパ科学の発展にとって特筆すべき人物となった。

 プーチン大統領やイスラエルなどのナショナリズムに訴える政治指導者たちは、排除、排斥ではなく、「鳥の歌」に表される平和の精神やカタルーニャで学んだジェルベールのように、異なる他者との共存や共生によって発展の知恵を学んだらどうか。

アイキャッチ画像はカザルス
国連で
1971年10月24日

https://www.paucasals.org/en/50-years-of-pablo-casals-at-theunited-nations/?fbclid=IwAR3QZ0RzirubQklzAez6n-BsMfSEp1LOxNzr4Vrbozc36fTuNOrcaP4Mc-M



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