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「世界難民の日」と欧米の不条理

 今日、6月20日は「世界難民の日」。2001年から定められた。

 マイケル・ウィンターボトム監督の映画「イン・ディス・ワールド」はアフガニスタン難民の少年がパキスタンのペシャワルからイギリスのロンドンにまで不法移民の旅をするストーリーだ。空気も薄く、体も圧迫されそうなトラックやコンテナなどを官憲の目を逃れるために移動の手段として使うまさに命を賭けた不法移民の旅を描いている。映画の舞台はパキスタン、イラン、トルコ、イタリア、フランス、イギリスになっていて、それぞれの国や社会の特性も垣間見ることができる。第53回ベルリン国際映画祭(2003年)で金熊賞を受賞した秀作である。

映画「イン・ディス・ワールド」

 映画を観終わった後で、死の危険を冒してまでも、またイギリスなどヨーロッパなどで経済的には決して恵まれないことがわかっているのにと思ってしまう。パレスチナでは、難民とならずに、ヨルダン川西岸やガザ地区に閉じ込められて暮す人々がいる。イスラエル軍によるパレスチナ人の子供たちの人権侵害を監視する民間団体の「ミリタリー・コート・ウォッチ」が2015年6月5日に国連に提出した報告書によれば、48年前の第三次中東戦争でイスラエルが戒厳令を布いた時以来、95、000人の子供たちが拘束され、そのうちの59、000人が拷問などの暴行を受けたという。報告書は、イスラエルが国際法に違反してヨルダン川西岸に住む入植者たちの安全を図るために、威嚇や集団的懲罰などの方法を用いていることを明らかにしている。

 ガザ北東部のベイト・ハヌーンのあるイマーム(説教師)は、「境界が遮断され、物資輸送のためのトンネルが破壊され、経済が『死滅』しているガザでは自称『イスラム国(IS)』の浸透の可能性がある」と「Foreign Policy」誌に語った。

 JICA(国際協力機構)の理事長であった緒方貞子氏は「難民問題は本質的に政治的問題」と語ったが、極右などの台頭に見られるように、ヨーロッパ諸国がムスリム移民の流入を嫌うならば、中東イスラム世界の安定を図る、あるいはこの地域が不安定にならないことを考えるほうが重要だ。

 イギリス、フランスなどNATO諸国は、2011年にリビアを空爆し、また武器市場としての湾岸に注目し、米国の軍需産業とも競合するようになっている。欧米諸国は、一方でサダム・フセインのイラク、ソ連と戦争を行うアフガニスタンのムジャヒディン、イエメンを攻撃するサウジアラビアなど湾岸諸国に武器を売却するなど戦争を煽り、あるいはイラク戦争やISへの空爆のように軍事介入を行ったが、他方で難民の大量発生は深刻と訴えている。

 など

 日本の政策課題も、中東イスラム世界の戦争に加担するよりも、民生を安定させることが難民の流出や、過激な武装集団の台頭を抑制することにはるかに貢献することになるだろう。

 「世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない。」(宮沢賢治「農民芸術概論綱要」『宮沢賢治全集』ちくま文庫)。難民問題への取り組みも対してはまさにそういう思いで国際社会全体が取り組んでほしいと思う。


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