生徒募集で生徒が変わる

 生徒募集で発信する内容によって、実際に集まってくる生徒が変わります。一年で変わることはないのですが、2~3年かけて取り組むことで生徒像が変わっていくことを経験してきました。

 当時、私が赴任した場所は所謂ヤンキーが集う学校で、たばこや暴力問題が毎月のように起きていました。登校して欲しくないなと思いつつも、そんな生徒の方が出席率も高く、他の生徒が委縮して登校してこない、そんな毎日の学校でした。当時、まだ2年生の彼らでしたので、あと2年は付き合っていかなければいけないと思うと本当にこの先どうしようと思う毎日でした。

 生徒だけではありません。全生徒の4分の1が学費未納となっており、夜な夜な自宅にお伺いし、学費の督促を毎晩行わなければいけない時期もありました。スクールウォーズのような荒れた学校ではなかったのですが、見える部分は学校でしたが見えない部分は本当に面倒なことが山積しているような状態でした。

 職員の疲弊も厳しい状態で、本来やらなければいけない業務を先送りにしている毎日で、授業が終わった後の学費請求や問題行動を起こした保護者対応、報告業務、成績処理、授業準備、非常勤講師のフォローなど忙殺される毎日でした。本来明るく元気に対応したいオープンキャンパスも根性論で盛り上げていくしかなく、本当に体力勝負で乗り切っていたような毎日でした。さらに産休で1名減るなど業務が増える一方。あの頃は本当に他の職員が踏ん張ってくれたと今でも感謝の気持ちがこみ上げてきます。

 この状況を改善するには生徒を変えるという結論に行きつきました。職員を増やしても対処療法でしかなく、業務が減ることはない。職員を増やすためには生徒数をあと30名ほど増やさないと採算が合わずに、増やすためのコンテンツやマンパワーを作り出すこともできない。生徒にかかっている手数を減らすことができれば、保護者対応の手数を減らすことができれば、本来時間をかけなければいけない業務ができるようになるはず。未納を減らす、成績ではなく自己管理できる生徒を集める、そして非常勤講師も質を上げていく。このような取組が必要だと思い立ちました。

 まずは自分でコントロールができる所から始めました。ただの偶然ですが結果的にこれが口火となって学校が変わり始めます。信頼できる生徒アンケートの結果から評価の低い先生2名に辞めていただきました。非常勤と言えども、離職を願い出るのは非常に繊細な交渉となりますが、他校からのお誘いが重なるラッキーがあったことで1名はスムーズに進みました。もう1名は交渉の機会を常に伺っていました。結果的に半年がかりとなりましたが、5月頃から面談をはじめ、9月から少しずつ具体的に切り出していき、12月には結論に達することができました。他の先生たちに緊張感を与えたことができたこと、欠員の教科を採用する際に、こちらの学校を変えていこうという意向を伝えることで引き受けていただける先生を採用できたこと。これで1つ非常勤講師を味方につけることが達成し始めました。自分の意向をくみ取ってくれる方がいると、本当に力になってくれます。他の先生たちの雰囲気や考え方、授業や学校に対する姿勢にまで影響を与えてくれました。非常勤なので、授業の時しか学校に来ませんが、その都度声をかけ状況を聞き、励まし、感謝するなど優先的にコミュニケーションをとることを心がけてきました。

 そのような先生ができてくると、オープンキャンパスも変わり始めます。その先生に優先的に依頼することで、生徒に発信できるメッセージが変わります。学校に毎日来ること、学費に関する説明、就職や進学など目標を先生からもお話ししてもらうこと等など。学校として自立しようと意欲のある生徒を増やしていきたい、100名中10名を目標にしました。体験入学でいいなと思えた生徒には担任や講師、在校生から積極的に声をかける、スカウトする位の気持ちでした。思惑通りにはいかないものですが、それでも期待できる生徒数名が入学してきてくれました。スターは作るもの、というのが持論です。パンフレットやネットで学校としての話題を提供してくれるような生徒は、学校側が積極的に育てていく必要があります。放置で成長する生徒もいますが、そのような生徒しか育てることができないとネタ不足となり、いつも同じ人がいるパンフレットしかできません。規模の大きさではなく話題としての扱い方はプロでユースする学校側の力です。意図的にチャンスを作り、与えるだけで終わらせることなく、裏からも手をまわし参加させ経験させる。スターは意図的に作っていくことで学校が変わりだしました。演劇で力を発揮する生徒、弾き語りを始めたので学校のCMに起用、パンフレットだけではなく制作物には毎回違う生徒を出していくなどの工夫で生徒にもやりがいや自信、学校との接点を増やしていきました。こうして、生徒が学校を見始めることで、もう一段学校が変わります。保護者も変わります。

 そして最後に保護者です。学費は未納になってからでは遅いのが実感です。未納となる前に話ができる人間関係、回数、お互い顔を知っているようにするために参観日をやりました。参観日には必ず個別に挨拶をしました。別件で学校に来るたびに直接声をかけるように心がけました。そうすることでお互いが話しやすくなる、連絡が取りやすくなる、未納になりそうなら先に電話をする、他の機会に「毎月納入ありがとうございます」など、当然周囲に聞こえないよう配慮して声掛けする。

 3年かかりましたが、3年目は未納が0、退学率も10%→5%に減少。出席率40%から90%に回復。部活も積極的に認めるなど投資もかなりかさみましたが、結果的に残業がへり、職員も本来やるべきことに向き合える時間が生まれ、進学や就職率の向上にもつながりました。いい事ばかり言っていますが、変えようと思えば変えることができた、そう思えた4年間でした。時間はかかりますが、できないことはない。

 今の学校は未納が多い・・・。
 同じ方法は通用しないかと思いますが。また学校を変えていくことに挑戦していく覚悟です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?