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【百人百問】世界中の問いを集める

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「百人百問」では古今東西の識者・学者・探究者が追い求めたであろう「問い」を探っていく。
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記事一覧

探究とは何か?―ジョン・デューイ【百人百問#024】

最近はよく「探究とは何か」について考えることが多い。 というのも、「Inspire High」という教育サービスの立ち上げに参加して、そのカリキュラムやプログラムを考えているからだ。 全国の10代向けのこのサービスは、世界中の面白い大人たち(”ガイド”と呼ぶ)にオンラインで出会い、その人たちの生き方や価値観に触れるというものだ。それだけではなく、オンラインワークショップのような機能もあり、ガイドに関連するお題が出ることで、10代は積極的に自分の考えを"アウトプット"すること

旅とは何か?―松尾芭蕉【百人百問#023】

構成萌えというのがある、のかは知らないが、ぼくは構成に萌えがちだ。映画やアニメやドラマや演劇が、どういう構成でつくられているのかが気になり、その構成が素晴らしいとゾクゾクする。 たとえば「涼宮ハルヒの憂鬱」がアニメ版では時系列がバラバラで放映され、ファンを驚かせたことは有名な話だ。原作を知っている視聴者を裏切りながら、飽きさせない工夫が施されている。単純な演出だが、視聴者は度肝を抜かれた。 構成は特にメディアをまたぐ時に際立つ。マンガからアニメへ、アニメから映画へ、小説か

日本文化はどこから生まれたのか?―折口信夫【百人百問#022】

一人旅行があまり好きではない。 その土地の風景が旅行ガイドブック通りだったと、指差し確認して回ってしまうのが原因だと思う。工場の点検作業のように機械的でなんの感慨もわかないまま、早く家に帰りたくなってしまう。どうも自由気ままに楽しむ、ということが苦手らしい。 だからこそ、わざわざ一人で1週間ほど奈良に滞在したことはすごく覚えている。ちょうど平成から令和に変わるゴールデンウィークあたりだった。なぜ奈良かというと、当麻寺(たいまでら)に言ってみたかったからだ。 JR東海が「い

私たちはどう生きるべきか?―スピノザ【百人百問#021】

SNSには「正論」が溢れている。 学校教育に漢文は不要だ、その議員を選んだのは国民自身だ、痩せたいなら食べなければいいだけ、いじめられるなら転校すればいい、毎日30分の継続が重要だ、うんぬんかんぬん。 どれも正論ではあるものの、「そうは言っても」と言いたくなるものもある。そんな中に、「なぜ自殺はダメなのか?」というものがある。自由意志が大事なのであれば、自殺も自分の意志なので、他人に迷惑をかけていないのであればいいのではないか、というものである。 なんだか正論のような気も

慈しみとは何か?―石牟礼道子【百人百問#020】

アメリカ留学の最中に祖父が亡くなった。日本を旅立つ前に病床で留学のことを告げると、「がんばらんばな(がんばらないとな)」と力強い声で言ってくれた。最近、祖母に生まれたばかりの子どもを連れて行ったとき「みぞかねえ(かわいいねえ)」と優しい声で言ってくれた。 方言には力がある。それは地元の人間ならではの語感を受け取れるからかもしれないし、幼い頃からの記憶が一気に湧き上がるからかもしれない。 地元である長崎が嫌で東京に出てきた。 海に囲まれ、日本の端っこの地だ。その辺境感覚から

「1」とは何か?―岡潔【百人百問#019】

昔から数学が好きだった。 小学4年生の頃に「1から100を足すと?」という問題が先生から出された時に、必死にひとつずつ足していった。まだすべてが足し終わらない時に、時間は終了。そこで先生が示したのは数学者ガウスの逸話だった。 ガウスは「1から100」を一列に並べ、その下に「100から1」を並べる。そして、上下の数を足す。 すると、「1+100」「2+99」「3+98」となり、すべて「101」になる。この足して101になるペアが100個できるわけなので、合計は101×100

道具はどう進化するのか?―ヘンリー・ペトロスキー【百人百問#018】

初代iPhone登場の驚きは、そこに大きなボタンが一つしかなかったことだった。しかもそれは大きくて凹んでいた。それはなぜか? 日本のガラケーはボタンがたくさんあり、BlackBerryもキーボードが付属していた。しかし、iPhoneはタッチスクリーンを採用したことで、スクリーンが大きくなり、物理ボタンを最小限まで減らすことができた。 正面にはボタンを1個にしたことで、ボタン自体を大きくすることができ、大きいことで凹ませることができた。それによって誤ってボタンを押してしまう

いかに真理を追求するのか?―ガリレオ・ガリレイ【百人百問#017】

今年はマンガ『チ。―地球の運動について―』が完結した年だった。ビッグコミックスピリッツで連載された本作は、「地動説」を命がけで守る研究者たちの激動を描いたフィクション作品である。 「チ」は、"血"を流すほどの異端審問を受けようとも、"地"球の真理を追求するための、"知"は継承され続ける、ということを象徴している。太陽系の惑星の個数である8巻で堂々完結した。 最終話がどうなるか、マンガ好き界隈も科学好き界隈もソワソワし、その劇的なラストに、知を探求する者たちへの畏敬と知的ロ

不条理とどう向き合うのか?―安部公房【百人百問#016】

高校時代は田舎の進学校の寮に監禁されていた。 大げさな表現ではあるが、寮生活が耐えられず脱走する者もいたし、学校を辞める者もいた。そこは、ケータイもテレビもマンガも恋愛も禁止されていた山奥の寮だった。 だからこそ、やることが無くなったぼくは読書に没入し、野矢茂樹(#010)をきっかけに「考える」ようになったというのは以前のnoteに書いた。そして、その過酷な寮生活で最もハマった作家が安部公房だった。 当時気になっていた文学少女Rさんに勧められたのがきっかけだった。たしか教

世界はどう成り立っているのか?―ハイゼンベルク【百人百問#015】

父が化学の研究者だったこともあって、家には小難しい理系の本がたくさんあったし、小学生の頃に一緒にお風呂に入るときには浮力について訥々と話されていたような思い出がある。だから、科学はすぐそばにあったし、数字や数式に親しみを感じていた。 そんな父の書斎の壁に1枚の写真が飾られていた。 それ集合写真のようで、アインシュタインやシュレディンガーやボーアやキュリー夫人が並んでいた。もちろん同時は一人ひとりの功績は知らなかったが、名前だけは父に教えられた。その後、大人になってその写真が

イノベーションはどう起こすのか?―藤原定家【百人百問#014】

現代における一番のバズワードは「イノベーション」だろう。マット・リドレー(#004)も『イノベーションと人類』を著している。もはや言われすぎて手垢まみれになっている。それほどまでに古い伝統を打ち破り、どうやって新しいものを生み出すのかが、平成から令和への最大の関心事になっている。 ビジネスでも教育現場でもスポーツでも、イノベーションを起こして、既存の枠組みを乗り越えることが叫ばれているのだ。 でも、それは現代に限ったことではない、いつの時代でも伝統や慣習に飽き飽きして、イ

創造力とは何か?―ブルーノ・ムナーリ【百人百問#013】

創造性やクリエイティビティというのが苦手でしょうがなかった。 中学生の頃には美術の成績が2だったし、何かを「つくる」という課題が苦手で仕方なかった。夏休みの絵の宿題は得意な友達に下書きを書いてもらって、それに絵の具で色をつけるだけだったし、木のフォトスタンドを彫刻刀でデザインする課題では、「Photo Stand」とそのままの文字を彫るのが精一杯だった。 そういう美術っぽいことが苦手だったこともあって、「クリエイティブ」という言葉に対して不信感しかなかった。あやしいアートデ

知はどう分類されるのか?―ドゥニ・ディドロ【百人百問#012】

本屋に行くと、趣味コーナーやマンガコーナー、実用書コーナーや歴史コーナー、美術コーナーや小説コーナーなどに分けられている。自分の興味あるエリアに行って、さらに細かな分類を見る。旅行コーナーであれば、国内か海外か。海外であればヨーロッパかアジアか。ヨーロッパであればスペインかイギリスか・・・。こうやって人は自分が求めている情報に到達することができる。 これは当たり前の話ではあるが、この単純なツリー構造のおかげで情報にアクセスできている。では「趣味」「マンガ」「実用書」「歴史」

コンピュータはどこへ向かうのか?―アラン・ケイ【百人百問#011】

コンピュータの発明者はいない、とマット・リドレー(#004)は言う。それは一人の人物がコンピュータを発明したと言えず、コンピュータ出現のプロセスに貢献した人が大勢いるからだ。 たとえば、歴史家のウォルター・アイザックソンは、最初のコンピュータと呼べるものを、1945年ごろにペンシルヴェニア大学で運用が始まった「ENIAC(エニアック)」だと結論づけた。ENIACを考案したのは、物理学者のジョン・モークリー、エンジニアのプレスパー・エッカート、兵士のハーマン・ゴールドスタイン