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片桐はいりさん『もぎりさん』トークレポ@センチュリーシネマ

ご存じ「もぎりさん」こと、片桐はいりさんが映画館にあふれる愛情を注ぎ続けておられるのは多くの方が知るところ。センチュリーシネマで公開中の『もぎりさん』は、キネカ大森の先付ショートムービー集です。
3月25日、同劇場22周年記念として開催されたトークの模様をお届けします。上映前のもぎりに始まり、片桐さんの筋金入りの「映画館」話は、いつまでも聞いていたい熱い内容でした。皆さんも映画館へぜひどうぞ。

人の感情が染みついた場所

18歳くらいから当時は銀座文化劇場、現在のシネスイッチ銀座でもぎりを始め、足掛け7年やりました。その後、俳優になって2011年くらいからキネカ大森さんでもぎりをさせていただいてます。
『もぎりさん』は2018年頃から作ってますが、隔世の感ですね。若い方は、もぎりという文化を知らない方もいますね。
映写機ももうファンタジーですが、昔からの映画好きにとって35mm映写機というのは大切なものだった。キネカ大森は今年39歳ですが、昭和の映画館の風景としてキネカ大森を残したいというのが『もぎりさん』制作のきっかけの1つです。すでに改装され、売場はコンセッションとかいう名前になって、映写機もなくなり、椅子は張り替えたばかりですが、携帯で「ワンカットもぎりさん」というのを時々撮ってキネカ大森のツイッターにUPしてるのでよかったら。「椅子三部作」(笑)という、椅子に対する愛着を語るもぎりさんを撮ってます。

全国の映画館をもぎりで行脚したかったんです。そのためには自分の主演作がないと。塚本晋也監督が『野火』であらゆる映画館を回ってましたが、「いいなー、私も持って回れる映画があったらな」と。だから、こうして来れたことがとっても嬉しいんです。

映画館って、皆さんのいろんな感情、冷や汗とか、出たものが染みついてるものだと思うんですよね。汚いと思う人は、まあ来なくていいです(笑)。
映画館は酒蔵みたいなもので、人が感情を揺さぶられてワーッとなったもの、もやもや立ち上ったものが染みついて発酵していくのが映画館なんじゃないかと思う。そんな話を監督たちに言ってたので『もぎりさん』もお化けみたいな話が多いですね(笑)。
映画館って「あそこは出るよ」みたいな話があるけど、私たちの間では「お化けの出ない映画館はダメ」というジンクスがあった。私は見たことないけど、映画館や劇場ってそういうものじゃないですか?

新しくて綺麗な劇場は「視聴覚室みたい」と思っちゃう時がある。映画館はそれとは違う「闇」があります。日常とは違う、とてつもない空間に入り、背丈の何倍もあるスクリーンに映った影を見る。これが私にとって映画館で映画を見るということです。
今はコロナの影響でどこの劇場も大変ですね。休館を余儀なくされた時、私もこのまま映画館に行けないかもと恐怖に怯えてました。

「もぎり」は、いってらっしゃいの火打石

もぎりの作業は「火打石」だと思ってます。時代劇で「いってらっしゃい、チッチッ」とやる、あの気持ちなんです。「いい旅を。素敵な世界へ行ってきてください。すごくつまんないかもしれないけど!」と送り出してたつもり。切るのが速すぎると言われますが、全盛期の寅さんとかに詰めかけたお客様を捌くのは、すごい速さでないと間に合わなかったんです。
QRコードやチケットレスで、今は誰とも話さずチケットを買う。タイトルも言わなくていい。言いたくない題名あるでしょ?それはそれでいいけど、私は見た保証として半券を持ち帰りたいんです。
コロナ自粛中は、映画館ももぎりも終わりかとノイローゼになりそうで、半券を毎日ひたすら貼ってました。あまりにも量が多くて挫折しましたが。

映画ももちろん大好きですが、映画館が好きなんですね。
コロナが終わったら誰も映画館に帰ってこないんじゃないか、配信だけになっちゃうんじゃないかと心配しました。でもその後、映画館のよさは大きなスクリーン、音響だとか言われるのが、すごくショックです。「これは映画館で見る映画です」とかいうけど「映画館で見ない映画」なんて、その感覚が分からない。
そもそも違うんです。配信でしか見られない人がいても異論は唱えませんが、私は「映画館でかかるものが映画である」と思ってる。まず体がそこへ行って楽しむこと。
うるさい人がいるとか、変な匂いがするとか、いろいろある状況で暗闇を共有するってことが映画を見ることだと思ってるんです。どっちが優劣という話ではないけど、音響とか画面がデカイとかだけではない。行く時や待つ時の経験も含めて映画館へ行くということ。テクニカルな問題じゃない。家で見た方が綺麗に見える時もありますよね?(笑)

劇場の人も気をつけてください。許されない映写環境でやってるところもありますね。「これはないんじゃない? こんな色で作ったはずないと思うけど」と思うこともある。
センチュリーシネマさんは、ちゃんとマスクも動かしてますね。皆さん分かりますか? スクリーンにもマスクがあり、サイズによってギューンと縮まったり広がったり、映画泥棒が始まったりする。
私はマスクが動く音で「わ、始まるー!」と、そこからもう映画。センチュリーシネマさんのチケットには「エンドロールが終わるまでが映画です」って書いてあるんですね。立つ人がいてもしょうがない、忙しいんだから。
でもそういう楽しみ方をするのが映画館。嫌だと言う人はしょうがない、お家で見てください、と思いますけど。
でも私はそれが本当に好き。

いい映画館になるためには

いろんなところに映画を見に行きますが、スタッフが楽しそうなのがいいなと思いますね。なんとなく雰囲気として。
私はふいに話しかけるんです。「何が面白いですか?」と。せめてキネカではある程度答えたい。自分が売ってるものを知らないって、考えられないでしょう。たくさんあるから全部は知らなくても、この辺が面白いとか言えるくらいはあった方がいい。
「どれを見たらいいですか、あなたの言う通りに見ますから」と聞くと一生懸命答えてくれる場合もあれば、ちょっと分からないですとなることもあるけど、やっぱり興味ない人がやってるより、映画好きな人がやってる方が面白い。
だから、休みの日に映画を見に行く人が好きなんです。映画館で働いてるけど、休みにも映画館に行っちゃってるみたいな人が働いてる映画館が好き。
それは椅子を全部取り換えろとか、音響設備がどうとか言われるより簡単で、基本的なことだと思うんですけど、どうですかね。

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以前、片桐さんが仰っていた「映画館は団体で行く個人旅行」という言葉に完全同意している私ですが、もぎり時点から衝撃だった話をひとつ。
「私、今日誕生日なんです~」と話しかけたお客様に対し、「テネシー・ウィリアムズと同じ誕生日ですね。違ったかな?」と即答されてました。
後で調べたら惜しくも25日でなく26日でしたが、それでもすごい。
テネシー・ウィリアムズの誕生日を即返できる片桐さんです。

『もぎりさん』『もぎりさん session2』
公開中~3月30日 @センチュリーシネマ

映画館スタッフたちの映画愛、映画館あるあるをキネカゆかりの映画人たちによって映画化された本作。
映画と映画館と映画好きな人々の素敵な関係を描きつつ、キネカに限らず「街の小さな映画館が元気になるように!」と願いを込めた作品。

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