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『シュシュシュの娘』2021.08.23 舞台挨拶レポート

全国のミニシアターで公開中の映画『シュシュシュの娘』。
公開3日目、シネマスコーレにて行われた入江悠監督の舞台挨拶レポートをお届けします。
この日は、名古屋から京都・大阪と劇場を回られた入江監督が再び名古屋へ。寄り道にぴったりな名古屋、さらにシネマスコーレは新幹線口まで徒歩5分。最終ギリギリまでトークやサイン会が行われた舞台挨拶の様子です!
(2021年8月23日:MC 坪井副支配人)

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― おかえりなさいですね。

そうですね、昨日の朝、スコーレさんで久しぶりに舞台挨拶させてもらって、すごく緊張しました。

― 僕もビックリしました。入江さんがこんなに緊張して。入江作品では多分『SRサイタマノラッパー3』以来ですね。

はい。今回10年ぶりの自主映画で、それが舞台に立ってようやく実感できました。だいぶ舌は回るようになってきたんですが、ずっと右目のピントが合わない(笑)。名古屋、京都、大阪とすごい移動距離を一人で回ってるので、電車を乗り間違えたらマズイ!と思いながら来ました。

― 今日は皆さんも「あ、こういう映画だったんだ!」と思ったと思います(笑)。

はい、ちくわを推してる理由も。今回学生がスタッフに入っていて、ちくわレシピを発信しています(笑)。そういう映画です。

― 去年4月にコロナで日本中の映画館が機能しなくなり、我々ミニシアターも危なくなっていろんな方が動き出しました。入江さんはまずミニシアターに寄り添うことから始められて各館にお話を聞いていき、今度は映画を制作した。すぐスイッチが入ったんですか?

以前作った映画『AI崩壊』は、SF映画でした。昔からのSF好きとして小松左京の本とか読んでると「簡単にこのウイルスは終わらないな、Tシャツを買ったりすることでは続けられないな」と。あと、やっぱり外側から応援している感があり、映画を上映してもらって一緒に「今日はお客さんが何人だった」とか話すと映画館の内情も分かる。並走するスタイルにした方がいいと、ミニシアターで上映していただく形で作り始めました。

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― この物語はすぐ考えつきましたか?

4日間くらいでバーッと書きました。やりたかったことを入れ込みましたが、主人公を男性にするか女性にするか迷いました。僕は男性の映画が多く、暗くなっていく自覚があるんです。『SR3』『ビジランテ』も破滅の方向に向かっていく。ミニシアターを応援する映画で、映画館から離れてしまった人にも戻ってきていただき、ちょっと元気になって映画館を出てほしいと考え、女性の主人公にしました。迷ったのはそれくらいですね。

― 撮影は脚本どおりに?

パンフレットに脚本が載ってますが、ほぼ初稿です。現場で少し変えた台詞もありますが、ほぼ最初に書いたままですね。

― コロナ禍でいろんなことがなくなりつつある中で映画を撮るのは難しいのではと思いますが、どうやって動かしていったんですか?

キャストは、自分のブログみたいなところに募集要項と個人アドレスを載せてここに送ってくださいと。それがすごく拡散された。去年やっぱり舞台や映像が飛んだ俳優さんが多くいらして、300人くらい来るかと思ったら2500人くらい来ちゃって。

(会場笑)

メールの容量を増設しました。見落としちゃいけないと毎日チェックして絞り込みました。スタッフもほぼ仕事が飛んでなくなっていた。撮影、照明や録音などテクニカルな部分はプロの方にお願いし、それ以外はボランティア。映画が初めての学生さんにも来たければいいですよと。面談して選びました。

― 初めての現場が入江さんの作品というのは、彼ら彼女らにとっても良い緊張感になったと思います。入江さんはどうでしたか?

最初は大変でしたよ、やっぱり。映画に看板とか出てきますが、プロの美術さんなら「こういうデザイン、こういう見え方で」と言えばいい。でも全くゼロからなので、一緒にホームセンターに行って木の素材を選ぶところからやりました。全部任せちゃうと「え、そんなの買ってきたの!」みたいな、すごく高価な木とか買ってくるかもしれない(笑)。一緒に行って「これくらいの素材なら1ヵ月耐久できるんじゃないか」とか。最初は大変でしたが、だんだん皆が映画の共同作業の楽しさに気づいていきました。
井浦新さんが心情を吐露するシーンがクランクインで、その瞬間に皆が「プロの俳優ってこうなんだ」と緊張したんです。緊迫感あるシーンが初日にあったことで、それまでの学生ノリがガラッと変わりました。

― 今回、自主映画で規制がないですよね。楽しかったですか?

すごく楽しいです! 一日3時間くらいで撮影が終わることもありました。空き家を借りて分散して泊まってたんですが、朝電話がかかってきて「ごみを出したらニワトリに荒らされてカラスが溜まってます!」とか(笑)。大家さんに謝りに行きました。商業映画ならそういうことは制作部がやってくれる。もう一度自分でやっていくのは楽しかったです。

― 役者さんたちは、そういう現場はどうだったんですか?

福田沙紀さんが言ってたのは、僕はすっかり忘れてたんですが「段取りを悪くやりたい」と最初に伝えていたらしくて。確かに段取り良くしていくとプロの現場に近づいていってしまうので、一つずつ試行錯誤しながら進めました。プロの現場だとオールスタッフが集まって自己紹介して打ち合わせを進めていくんですが、コロナなのでなるべく集まらない方がいいわけです。じゃ止めようとか、今まで慣習だった作業を一つずつ疑っていく。それでペースが悪くなることもあるんですが、福田さんや吉岡(睦雄)さんとかも楽しんでくれてましたね。

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― キャストは今までの入江組とちょっと違いますよね?

ほぼ初めての方ばかりです。宇野祥平さんだけはよく一緒にやっている方で。…(客席に)宇野祥平さんは、ご存じですかね? どこに出てたか分かります?(笑)

(会場笑)

宇野さんだけはギリギリまで迷いました。主人公との掛け合いがユーモラスで、同世代のセンスも欲しいなと。あのメイクはすごく時間もお金もかかるんです。一日3時間くらいメイクして。

― すごいですね(笑)。

特殊メイクでお金に比例してクオリティが上がる(笑)。自主映画でここにそんなにお金使っていいんだろうか、もっと他に使うところあるんじゃないか?(笑)と迷ったりしました。井浦新さんは宇野さんより年上で、年下の人に向かって気持ちが入るか心配でしたが、この前、井浦さんに聞いたら別に大丈夫ですと。

― 80年代風の音楽も、良い意味で錯誤感がありました。最初からそれでいこうと?

そうです。コロナ禍のミニシアターを考えた時に、笑える感じや軽さがいいかなと80年代ディスコ的な曲で。あと少年時代に聴いていたBOØWYやBUCK-TICK、80年代の名残があって今聞くと逆に新しい、子どもの時の記憶を出したかったですね。一部だけは音楽の海田庄吾さん。エンリオ・モリコーネが大好きな人で、80年代をいったん忘れてやりました。

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― 今日は上映3日目ですが、いろんな感想を聞いてどうですか?

やっぱり「ミニシアター」に特化したかったんです。スクリーンサイズも正方形に近いスタンダードというサイズで、音もモノラルの1ch。ご家庭でも5.1chがある時代に、1chで正面からだけ。でも昔の映画はそうだったんです。今のシネコンはどんどんワイドになり、スペクタクル感が増して、音もサラウンド。迫力で押して「家の環境と違うから映画館に来てください」という。昔に戻り、ミニシアターはスタンダードでモノラルで、集中しないと情報が入らない環境にできるのではと思い、そういうフォーマットにしたんです。
僕の映画もそうですが、シネコンだと「すごいアクションが見られます」「泣けます」と宣伝し、それを担保にお客さんが映画館に行くことがどんどん強まっている気がする。ミニシアターはもっと気軽に入って「え、こんな映画だったの? 何を見に来たんだ、私?」みたいなのがミニシアターっぽい。玉手箱のような感じ。

― ああ、いいですねえ。

その驚きのためにずっと宣伝で隠してたこともありました。映画を見ながら「こんなの見に来たんだっけ?」と。ミニシアターっぽい体験だと思うんですよね。

― 確かに、スタンダードサイズはミニシアターでないと無理ですね。

難しいと思います。『AI崩壊』や『22年目の告白』を一緒にやったベテラン録音技師の古谷(正志)さんという方が「そういう企画意図ならその方がいい。実は1chの方が豊かに見えることもあるんだ」と言っていました。いっぱい与えられると人間は慣れてしまい、耳をそばだてることがない。1chにすることで映画の世界に深く関われることがある。プロの意見にグッと来てしまったんです。

― なかなか1chの理由には気づけないですね。僕も今、そうか! と思いました。

昨日大阪で、シネコンはよく行くけどミニシアターはあまり行かないという方が「途中で画面が横に広がると思っていたら四角いまま行くんですね」と。よくありますよね、『WAVES』とか。でも昔の映画ってそうなんです。当たり前と思ってることが、以前は当たり前じゃなかったとか、これが当たり前だったとか。それも映画館の発見だと思うんです。

― それはグッときますね。

スタンダードの画面は狭く、演出も難しいです。カメラをあまり動かしていないので、俳優さんが動くと画からいなくなっちゃう。そういう演出も難しくて腕を試されます。

― では、最後に。

名古屋はこれからも一番来ると思います。昨日関西に行きましたが、東京へ帰る時また寄れる(笑)。スコーレさんは『SR』シリーズを日本で一番上映していただいた映画館で、その歴史を振り返ることもしたいと思ってます。
面白かったら、脚本を読んでもう一度映画を見直していただいてもいいし、ミニシアターに行ったことない人に「平日すいてるよ」とか伝えていただけたら嬉しいです(笑)。全国のミニシアターをこの映画で応援しているので、よろしくお願いします!

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『シュシュシュの娘』

出演:福田沙紀、吉岡睦雄、根矢涼香、宇野祥平、金谷真由美、松澤仁晶、三溝浩二、仗桐安、安田ユウ、山中アラタ、児玉拓郎、白畑真逸、橋野純平、井浦新 他

製作・脚本・監督・編集:入江悠
プロデューサー:関友彦
撮影:石垣求
照明:高井大樹
録音・整音:古谷正志
音楽:海田庄吾
装飾・小道具:武富洸斗
美術アドバイザー:田中真紗美
小道具制作協力:松永桂子
衣裳デザイン:髙橋正史
スタイリスト:小宮山芽以
ヘアメイク:河本花葉
特殊メイク:百武朋
アシスタントプロデューサー:大條瑞希
監督助手:宮本紘生
ロケーションコーディネーター:高畑祐史
制作主任:宮司侑佑
宣伝美術: 寺澤圭太郎、崎田ハヤト
制作プロダクション・配給:コギトワークス
企画・製作:BROCCO FILMS


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