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『私は白鳥』槇谷茂博監督インタビュー

「地方テレビ局が作るドキュメンタリー映画」は傑作が多いと思います。
地元ならではの面白い対象に密着し、切り込んだ作品の数々。
『私は白鳥』は、あの『はりぼて』を制作した富山チューリップテレビによるドキュメンタリー。楽しみに拝見したのですが、あまりに方向性が違うので最初は戸惑いました。登場するのは、白鳥とそれを見ているおじさんだけ。しかしこれがめちゃくちゃ面白い! まさに愛と狂気のドキュメンタリーだと思います。槇谷茂博監督に撮影のいきさつなどを伺いました。

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― チューリップテレビは傑作ドキュメンタリーが続々と生まれています。ドキュメンタリーを自由に作れる体制があるんですか?

たまたまいろんな方面に興味を持つ、変わった人間がいるんです。自由に自分たちの好きなものを作ろう、よりディープに取材していこうといろいろなものに飛び付き、チャレンジできています。

― 今回はTBSテレビとのタッグを?

チューリップテレビで2019年5月に70分ほどの番組として放送しました。それをTBSさんが面白いと。「報道特集」として30分に詰めたものを放送してもらいました。それが評判がよく、映画化することになりました。

― 白鳥とおじさんしか出てこない。それなのに圧倒的に面白いです。

はい。たまに猫も(笑)。白鳥はなぜか画が強いですね。澤江さんと意思が通じ合っているようで面白い。白鳥が人間になっているのか、人間が白鳥になっているのかだんだん分からなくなる不思議な世界です。

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― 取材が始まったいきさつは?

2017年冬、富山に飛来する白鳥が激減したらしいとのことで、ニュースの企画の中で取材しました。専門家たちに「飛来する白鳥の数を一番知っているのは澤江さんという方だ」と紹介いただき、記者が澤江さんに会って映像を見せてもらったら「この白鳥はコンコルド君。こっちはオハナちゃん」とか、澤江さんが喋っているんです(笑)。「澤江さん、面白いよね」という話になり、またニュースで密着しました。澤江さんを取材していく中で、今度は「帰れなくなった白鳥がいて、死んじゃうかもしれない。前にいた一羽は死んじゃって、この子はどうしても秋に仲間と再会させたい。この子は彼女もいてね」とか言うのを聞き「なんという話だ」と。澤江さんをもっと知りたい。白鳥の再会が見たいと取材が進んでいきました。

― スタート時点で、こういうドラマが起きるとは…

全くないです。まさか撮れるとは。富山で野生の白鳥が夏を越せるのかも分からず様子を見ていたら、澤江さんが白鳥の寝床を作り出した(笑)。どんどん世界に引き込まれていきました。

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― どこまで白鳥に介入すべきか、澤江さんご自身も迷っています。そんな澤江さんへの介入度は、さらに悩まれたのでは?

はい。野生に餌をやること自体に批判もあります。澤江さんはなるべく自然界に影響のない範囲で活動されていますが、それを放送することで澤江さんが逆に非難されてはいけない。しかし専門家に「野生にとって一番いけないのは人間が何も考えないこと。皆さんに考えてもらう材料になる良い番組だ」と言われ、後押しになりました。

― 澤江さん自身も、カメラを避け始めてしまいますね。

ええ。番組放送後、川辺に人が集まってしまったんです。澤江さんとの関係が崩れていき、「遠慮してほしい」と話がありました。私たちが入っても良い場所を決め、取材を引き気味にして澤江さんの気持ちに配慮しました。

― 澤江さんはこの作品をご覧になり、どんな感想を?

何度も泣いていました。最初は映画化に否定的で、大切な白鳥との関係が崩れることを恐れていた。でも完成した作品を見てすごく喜んでくれました。自分もカメラマンとして撮影しているし、感慨深いようです。彼が喜んでくれるのが一番嬉しい。19年春以降、僕らが見ていない期間に澤江さんが記録した映像が一番力強いので、喜んでくれたのは本当に嬉しいです。白鳥との時間は澤江さんの人生の全て。その時間を作品として使わせていただけた。白鳥のために生きている方です。

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― カメラの前で、澤江さんはご自身のことにあけすけです。

そうですね。自分も長くニュース取材をしていますが、こういう人がいるとは…。白鳥を陰で支え、表に出ることを気にされていた部分もありました。
全力なんですよね、何でも。澤江さんは全力でぶつかっている。取材していたのは入社1-2年目の若い記者で、がむしゃらな新人に全てを打ち明けてくれました。

― 撮影は、澤江さんが不在の時も行かれていたんですね。

ええ。白鳥に遭遇するタイミングでは、澤江さんと協力し、交代でずっと現場から離れない態勢で臨んでいました。

― それを4年間も…。

はい(笑)。無駄はたくさんあります。やっぱり予期せぬ時に面白いことが起きるんです。早朝からいても現場は動かないんですよ。川のほとりでずっと寝てたり、待つ時間の方が長い。何も起きない映像だけが溜まっていきました(笑)。

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― ナレーションは天海祐希さん、主題歌は石崎ひゅーいさんの書き下ろし。キャスティングはどのように?

富山に縁のある方にナレーションをお願いしたかったんです。天海さんは小中学校時代の夏休みを富山で過ごしていた方。天海さんの凛とした強さと美しさが白鳥と重なり、何より澤江さんの人生に共感してもらえるのではと。富山の風景を懐かしがってくれ、澤江さんのキャラクターを壊さぬようにと積極的でした。ピタリとハマったと思います。
石崎さんには「スワンソング」を書いていただきましたが、それが入るパートはどう仕上げるか力を入れましたね。白鳥の目線が歌で表現され、良かったです。

― 編集も面白かったです。編集での工夫や苦労は?

大変だったのは、澤江さんのブルーレイ300枚の中から映像を見つけていく時間と労力。澤江さんが毎日1時間半くらい撮影した映像を、何が起きているか知らないまま見せてもらいました。編集にあたり、白鳥と澤江さんの二人の世界観をどう描くかは非常に気を遣いました。
見終わって「あの世界観を見守ってあげたいな」と思ってもらえるように作り上げたつもりです。

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『私は白鳥』 
12/31金~ 伏見ミリオン座
渋谷ユーロスペース、京都シネマ、大阪ナナゲイ他にて公開中

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監督:槇谷茂博 出演・白鳥撮影:澤江弘一
語り:天海祐希
(C)2021映画「私は白鳥」製作委員会



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