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【年間企画】縮小社会 宮崎の未来図~第1部・第2部

 本県の人口は2030年までに100万人を切るとみられ、人口減をきっかけに社会全体の規模が小さくなる「縮小社会」は避けられない。都市部に流出する若者や、県内で結婚や出産をためらう人々の声を紹介。止まらない人口減少の根底にある問題に向き合います。

このコンテンツは年間企画として現在、宮崎日日新聞社・本紙1面中心に連載中のものです。第1部「止まらない流出と自然減」は2024年1月1日~1月12日、第2部「少子化と男女格差」は2024年2月16日~2月22日に掲載されました。登場される方の職業・年齢等は掲載当時のものです。ご了承ください。

縮小社会⇒第3部・第4部


「自然減」+「社会減」 加速

 人口減少の波が止まらない。国や自治体は、子育て支援など各種施策に取り組んでいるが、抜本的な解決には至っていない。自然減と社会減が同時に進む「W減」時代に突入している本県で、今必要な取り組みは何か。識者に話を聞くとともに、本県の「今」と「未来予想図」をデータで紹介する。

■福岡、東京に若者転出
 本県の人口動態は2003年以降、死亡者数が出生者数を上回る「自然減」と、転出者数が転入者数を上回る「社会減」が同時に進行。二つの減少による「W減」現象に伴い、減少スピードは加速している。
 社会動態を見ると、進学や就職時期を迎える若年層の県外流出の影響は大きく、特に18歳と22歳が顕著。転出先を15~29歳(18~22年の平均、総務省調べ)で見ると、福岡が最も多く、東京が2位で続く。若年層の流出は少子化の一因となり、本県の人口構造にも影響を及ぼしている。自然動態は1980(昭和55)年以降は減少傾向にあり、03年に自然減に転じた。

■出生数 30年間で41%減少
 女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す「合計特殊出生率」。2022年の本県は1・63(全国平均1・26)で全国2位となった。県は日本一達成を重点施策に掲げ、出生率1・8を目指す。
 一方で、22年の出生数は過去最少の7136人。この30年で最大の落ち込み(前年比6%減)となった。出生数はこの30年間で41%減少、この10年間で28%減少した。
 出生率を巡っては、出産していない若い女性が県外に流出することで数値自体は上がる側面もあるため、人口減少対策は合計特殊出生率だけにとらわれない視点が必要。

生産年齢割合全国43位 未婚率は男女共に低く
 本県の人口を巡る主な指標(2020~23年)を見ると、人口に占める生産年齢人口(15~64歳)の割合は全国43位の53・8%で、現役世代が少なくなっているのが大きな特徴だ。
 15歳以上の人口総数に占める未婚者の割合は、男性が28・8%となり、全国で最も少ない(全国47位)。女性は20・7%(35位)で、男女共に未婚者の割合は低い。一方、人口千人当たりの離婚件数は1・68件で全国3位となっている。
 暮らしに目を向けると都道府県別の最低賃金は897円で全国40位と、賃金水準は低い。

人口減対策 待ったなし

■30年までに100万人割れ
 本県の人口は1996年の約117万7千人をピークに減少傾向にある。2023年12月1日時点の推計人口は103万9751人。県の将来推計では今後、30年までに100万人を割り込み、50年は約75万6千人、70年には約57万1千人まで縮小する。

 市町村別では、宮崎市39万7078人は50年に約31万8千人(減少率27%)、都城市15万8363人は約12万人(同24%)、延岡市11万3182人は約7万5千人(同34%)となるほか、郡部では減少率が50%を超える自治体もある。

 65歳以上の高齢者数は25年ごろにピーク(35万7013人)を迎え、その後も高齢化率は上昇。23年の33・7%から、50年には39・6%になる。
 高齢者1人を支える現役世代(15~64歳の生産年齢人口)の人数は、「胴上げ型」とも呼ばれた90年の4・6人から、20年には1・7人と、かろうじて「騎馬戦型」に近い構図に。40年は1・3人となり、「肩車型」と呼ばれる不安定な構図になると予測されている。

識者インタビュー

雇用、賃上げ課題/男女の格差解消が鍵

■日本総合研究所上席主任研究員 藤波匠さんに聞く
 県の将来推計では2030年までに県人口が100万人を割り込む。縮小社会にどう向き合えばいいのか。人口問題を専門に研究する日本総合研究所(東京都)の藤波匠・上席主任研究員に話を聞いた。

 ふじなみ・たくみ 1992年、東京農工大農学研
究科修士課程修了。同年、東芝入社。99年、さくら
総合研究所入社。2001年、日本総合研究所調査部
に移籍、山梨総合研究所出向を経て08年に復職。主
に地方再生、人口問題研究に従事。著書に「なぜ少子
化は止められないのか」「人口減が地方を強くする」
など。神奈川県出身。              

■雇用、賃上げ課題 男女の格差解消が鍵

 -本県人口は1996年から減少傾向となり、2003年以降、自然減と社会減が同時に進んでいる。

 「県外流出による若者の減少が影響している。出生数の減少は母数減の影響が大きい。人口の出入りは、大卒者向けの仕事があるかなど経済的な地域特性で決まる。宮崎は若い女性がより多く県外に流出しているのが特徴だ」

 -なぜ若い女性が県外に出て行くのか。

 「地方から流出する人材の多くは大学や専門学校を卒業した高度人材。中でも今、そのような女性が大都市を目指す動きが顕著。東京圏に集中するITベンチャー企業など、情報通信産業が急成長に伴い人手不足になっている。男性は完全雇用に近いが、女性は能力が高くても非正規で働いている人もおり、人材獲得の余地がある。情報通信などの成長産業では、賃金面のジェンダーギャップ(男女格差)是正やリモートワーク、育児休業制度などを充実させ女性を積極採用している。その結果、宮崎などの地方が割を食っている」

 -県内では移住応援給付金制度により移住者が急増している自治体もある。

 「多子世帯の増加を目指し、高額の給付金や手厚い子育て支援による移住促進に取り組む自治体は、他県にもある。明石市も積極的だが、兵庫県全体の人口は増えておらず、人口減対策としての効果は疑問。今の日本は『第1子にたどりつけない人』が増え、少子化が進んでいる。限りある人口を自治体同士で奪い合うよりも、各地で安定した雇用や賃金の引き上げなどを通じ、宮崎に住む若者が結婚や出産、子育てに前向きになれる環境を築くことが持続可能な人口減対策になる。移住促進を進める際も質の高い雇用の創出とセットで考える必要がある」

 -本県の合計特殊出生率(2022年)は1.63で、全国2位。河野知事は日本一達成へ1.8台を目標に掲げている。

 「知事が高い水準を目指すのは悪くないが、そこに至る政策が重要。女性の県外流出が多い宮崎では、女性が地域に定着できる雇用の創出が求められる。そのためには、男女格差の解消が鍵。行政や企業のトップが率先して採用や賃金、管理職登用などで男女格差をなくすべきだ。これらは育児や家事など家庭内男女格差の解消にもつながっていく。さらに、積極的な技術・IT投資による労働衛生環境の改善も重要。性別や障害の有無などにかかわらず公平性を実現するべきだ」

 -本県では人口減少対策にどう向き合えばいいか。

 「日本全体では、25~34歳の結婚・出産適齢期の人口は現在、大きく減少しない時期に当たる。しかし、2030年には再び減少に転じるようになり、出生数減にブレーキをかけることが極めて難しくなると考えられる。宮崎も同様の状況にあると考えられるため、30年までに急速な少子化に歯止めをかけることが求められている。男女共に雇用や賃金を引き上げ、経済環境を改善することでジェンダーギャップのない県となれば、県民も結婚や出産に前向きになれる」


第1部 止まらない流出と自然減

 第1部では県外に流出する若者や、結婚や出産に困難を抱えている人々の姿を追い、人口減を招く要因を探る。

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