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離職予防の科学③

自己紹介

ベターオプションズ代表取締役の宮中大介と申します。メンタルヘルスや組織開発関連ビジネスの開発支援、人事・健康経営関連のデータ分析に従事しています。慶応義塾大学でメンタルヘルス、ワーク・エンゲイジメントに関する研究教育にも従事しています。株式会社ベターオプションズ:


はじめに

初回に説明したように、学術研究の離職に着目した研究では対象サンプルが介護士や看護師に偏っており、企業勤務の労働者を対象にした研究が極めて少ない点について説明しました。そこで今回は、日本の大企業中心の離職率について検討したいと思います。

大企業の離職率はどうなっているのか?

かつては離職率は企業の秘密とされ対外的に開示されることは稀でしたが、ここ10年程のESG、人的資本開示の流れを受けて、情報開示に積極的な大企業を中心として離職率が開示されることが多くなってきています。今回は、20社について開示資料から離職率を集計してみました。

なお、開示されている離職率のうち、直近の数値を用い、自己都合離職率が開示されている場合は自己都合離職率の数値、国内とグローバルの数値が示されている場合は国内の数値、単体とグループ全体の数値が示されている場合には単体の数値を用いました。

これを見ると、いわゆる大企業とベンチャー企業の差が伺えます。たとえばラクスルの離職率の高さが目立ちます。ラクスルは2009年創業のいわゆるベンチャー企業であることから、一定期間後に人材が入れ替わる新陳代謝が高い状態にあるものと推測されます。次いで1998年創業のサイバーエージェント、ZOZOで離職率が高くなっていることからも、そのことが伺えます。

創業から50年以上経過した大企業での離職率は、2~3%台の離職率の企業が多いことが分かります。看護師や介護士においては10%超の離職率が珍しくないことを考えると、学術研究で多い看護や介護の業界を対象にした研究を大企業のホワイトカラーに適用する際には注意を要することが分かります。

離職率を指標とする際の注意事項

なお、離職率の計算式が明示されていることは稀です。おそらく、

ある年度の離職率=ある年度の離職者数/(年度初めの)在籍者数

で計算されたものと思われますが、分母に年度末の在籍者数を用いている可能性もあります。分子の離職者については自己都合による退職と全事由で分けて開示している企業とそうでない企業があります。分母についても正社員のみや新卒入社社員のみを対象にしている企業もあります。

離職率を見る際に、注意しないといけないのは、性別や年代によって離職率が異なる可能性がある点です。一部の企業では性別や年代別の離職率を開示している企業もありますが、年代別の離職率を開示している企業は非常に稀です。

たとえば、新卒社員が定着しない企業では20歳代の離職率が高くなり、中堅社員がキャリアアップを求めて離職する傾向のある企業では30歳代で離職率が高くなる可能性がありますが、そのような年代による特徴は、会社全体の離職者数/在籍社員数で計算すると分かりません。特に多くの企業で20歳代の社員数は企業の中で少数派になっていますので、ここ10年で若手社員が多く離職しているという状況は、会社全体の離職率にはほとんど反映されていないと思われます。

したがって、開示されている離職率はこれから就職を考える学生の参考にはなりづらい指標と言えます。なお、今回は平均勤続年数には触れませんでしたが、平均勤続年数についても、離職率と同様年代による差があるにも関わらず会社全体での平均勤続年数として開示されている企業が大半であるため、上記の離職率に関するのと同様解釈には注意が必要と考えられます。

なお、今回調査対象とした20社と情報開示源は下記の通りです。

離職率を調査した企業

東邦ガス:

https://www.tohogas.co.jp/corporate/eco/eco-10/pdf/2023_social_data.pdf


双日:


川崎汽船:


日本電気:

丸紅:

伊藤園:

サイバーエージェント:

https://d2utiq8et4vl56.cloudfront.net/files/user/pdf/ir/library/annual/cyberagent_IR_2022_jpn_79_86.pdf?v=1681358545

ラクスル:

https://corp.raksul.com/esg/esg_data/

大和証券グループ:

https://www.daiwa-grp.jp/sustainability/data/pdf/daiwa_sustainability_data_2023.pdf#page=14

小野薬品工業:

伊藤忠テクノソリューションズ:

三井化学:

三菱UFJ銀行:

https://www.mufg.jp/dam/csr/report/esgdata/2023.pdf

三菱商事:

https://mitsubishicorp.disclosure.site/pdf/202308ja.pdf

みずほフィナンシャルグループ:

https://www.mizuho-fg.co.jp/csr/mizuhocsr/report/data/pdf/esg_databook.pdf

エーザイ:

大成建設:

ZOZO:

三菱重工:

https://www.mhi.com/jp/sustainability/library/pdf/esgdatabook2022_all.pdf#page=76


任天堂:

以 上


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