見出し画像

土地の記憶をたどる:Day1

リモートワークが板についてくると、自分が住んでるまちに目がいくようになる。すごい近所に良い感じの公園があったりとか、お気に入りのお豆腐屋さんを発見したりとか。好きなものが周りに増えることは嬉しい。

そんな、自分の生活圏に興味のなかった私でも、引っ越してきてからずっと気になっていたものがある。それは、近所にある「大きな木」だ。

スクリーンショット 2020-05-28 22.51.29

彼(彼女かもしれないけど、彼だと私は思う)との出会いは2年前。家から会社までの通勤路に、彼はいた。

彼が立っているのは、広大な空き地の中。空き地なのに何故か彼だけは切られず、そのまま佇んでいる。そして何より、佇まいが立派。多分15mは超えてるんじゃなかろうかという迫力ある高さの彼が、住宅街の中で1本だけ立っている違和感。何かの手違いで時空が歪んでそこに降り立ってしまった浦島太郎のような。住宅街の中にある人工的で弱い緑の中で、彼の姿は寂しげで、でも凛としていた。

彼は何故、切られず、ずっとここにいるんだろう? 何故この土地はずっと空き地なのだろう? 彼は、誰が植えたのだろう? この土地は今誰のものなのだろう? そんな疑問を抱きながら、毎日は過ぎて行く。

そんな日々が2年過ぎたある日、不意に工事が始まった。

やばい!彼が切られてしまう…!!!




画像2

あれ、き、切られない………何故………………………

土地の使われ方が変わってもそこに存在する、圧倒的な存在。やはり神聖な何かが彼には宿っているのだろうか。もう、こうなっては居ても立っても居られない。彼は何者なのか、確かめなければ。

ということで、彼のことを知るために、会社を休んだ。


①彼の物語を妄想してみる

ググってみると、15mの木だと大体樹齢300年以上らしい。300年前って言ったら、江戸時代中期じゃないか。想像以上にお年寄り……

ちょっと先に明治神宮とか代々木八幡宮とかあるし、ここ一帯が、なんか神聖な場所だったのかもしれない。祈る場所ではなくなったけど、その証として、彼だけ残っているとか。だとしたらちょっと悲しいな。周りだけどんどん変わって、自分だけ取り残されてるような気分になったりするんだろう。

もしくは、家族が植えた木が立派に育って、幸せの象徴的な感じで残ってるとか。はたまた、呪術的な役割があって、空き地は何かを召喚するための場所とか。次々とファンタジーな妄想が浮かぶ。これだけでなんか十分楽しめた気がしてきた。


②誰の土地か確かめてみる

とはいえ、やはり少しでも真実に近づきたい。ということで、彼がいる土地のことから調べてみることにした。

土地や建物に関わる仕事をしてたり資産を持っている人は当たり前かと思うが、会社登記と同様、土地や建物にも"登記簿"というものが存在し、法務局で発行可能。

つまり、住所さえわかれば誰でも、その土地のプライベートを覗けてしまうということ。

登記簿って小難しい言葉だけど見方は簡単だし、その土地の物語を覗き見ることができるので、理解できればとても楽しい。探偵になった気分で楽しめるのでおすすめ。暇なときにぜひ試してほしい。

前職の都市計画の会社で1日何百・何千の登記簿とにらめっこしていた私は、4年ぶりに法務局へ足を運び(あの昭和な感じ懐かしかった…)、該当住所の土地登記簿、建物登記簿、地積測量図を申請。(該当住所は、土地の入り口にある謎の門に書いてあった)

スクリーンショット 2020-05-28 22.51.29

ここまでは順調だったのだが、なんと、「該当住所はこの世に存在しない」と言われてしまった。


えっ………………………………………………?


昔だったらすぐ「合筆」の考えにたどり着くのだが、不動産知識を忘れかけている私は法務局であからさまにパニクる。

合筆(がっぴつ/ごうひつ)とは隣接する数筆の土地を一筆の土地に法的に合体することをいう。対義は分筆。by wikipedia(つまり、隣り合わせの土地を便宜上1つの地番にしてしまうということ)

存在しないはずの土地を発見してしまった………………………………

と、ひとしきり悩んだところで、類似地番の土地台帳図を申請してみた。これは公図とも呼ばれ、土地のざっくりした形状を確認できるもの。

画像4

すると、公道と公道の間の土地一帯が同じ地番に合筆されていることがわかった。家・家・空き地・駐車場・家と、同じ地番の土地の中で、5つの土地活用が行われている。これは所有者的には諸々の申請が一度で済むので楽チンな一方で、全部同じ住所なので配達員さん的にはとても大変。(そしてその南側の馬鹿でかい土地もきになるけどこれはまた今度…)

その後改めて土地登記簿、地積測量図を申請、無事ゲット。建物登記簿はなかった。1番見たかったのに残念。(建物登記は任意なので、地番として存在していても建物登記してない土地もある)

昭和までは新潟の人の土地だったけど、8回の所有権の移転を経て、今は某大手不動産会社の持ち物になってるっぽい。なんか都会っぽい結末。

でも、不動産会社の持ち物になっているならなおさら、非情に切り捨てられてもおかしくはない。あまりにも立派だから、何かの保護樹に指定されてるのかもしれない。

ーーーー

ということで1日目のアクションが終了。久しぶりに登記簿を凝視したけど、探偵になった気分で楽しかった。

土地自体のことはわかってきたけど、まだ彼のことはよくわからない。。次は工事のおじさんに突撃インタビューしてみるか、不動産会社に問い合わせるかだな。大手すぎて連絡しても返事返ってこなさそうだなあ。


おわり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?