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海を見に

先月、二年ちょっと前まで職場だった近所の図書館の新刊コーナーで、一昔前に顔見知りだった方の著作をたまたま目にして軽い驚きと共に手に取り、そのまま借りてみた。

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もう十年以上も前、とあるバンドのライブに足繫く通っていた頃に、親しい友人の知り合いで、友人が一緒でなくとも顔を合わせたら挨拶を交わす程度の仲、SNSで直接つながってもおらず、たまにweb上でお見かけしては、いつの間に関西に移住されたんだろう、ライター業でご活躍されてるんだな、などとぼんやり認識していたのだけれど。図書館の蔵書で帯がついてなかったので、後からSNS経由で知ったのは、今作の帯の推薦文はあの平松洋子さん!(と武田砂鉄さん!)そして本の内容も予想を遥かに飛び越えて素敵で、うれしい驚きでした。敬愛するバンドのファン仲間、そして一介の酒好きとしてのシンパシーをひしひしと感じたし、これだけの年月を経てから、あくまでも一方的とはいえさりげない再会を果たしてまた挨拶を交わせたかのようで、なんとも心温まる読書体験だった。買って手元に置いてもいいかなと思ってる。

年末はまだ序盤にしか目を通していなかったのだけれど、冒頭の「海を見に行くだけの午後」というエッセイにもろに影響を受け、年始のお休みにどこか出かけようという話が出るたび、漠然と海を見たいような気がしていて、当日朝、起きてから相談した結果、銚子にドライブに行くことになった。車の中でスピッツの「海を見に行こう」という曲の入ったアルバムをスマホ経由でかけて名盤だよねと言い合ったり、屏風ヶ浦を遠く臨める砂浜に車を停めて降り立ったら強風にあおられて歩くのも困難だったけど寄せては返す波や磯の匂いや久しぶりの海はやはりうれしくて、カーナビとスマホを頼みの綱で行き当たりばったりで辿り着いた灯台に隣接した土産物屋のひなびた食堂でそんなに期待せずに注文した蛤や岩海苔の入ったラーメンは意外と美味しく、灯台の展望台に上ってみたのは良いけど足場は狭いしおっかなくてすぐ降りたけど強風にさらされて眺めた一月の海はどこまでも蒼くて波濤が真っ白で、駐車してる車で待ってる犬の虚無顔が半端ないとか受付のねえさんの声がいい具合に酒焼けてたねとか他愛のないことや先のこととか思いつくままに話して、無農薬の地野菜や酢絞めの冷凍秋刀魚なんかちょっとしたものを夕飯用に買ってクラフトコーラを半分こして飲んだり、なんてことない体験を共有できる平穏な幸せを心の中でしみじみ味わいました。見晴らしのよい丘から水平線に沈む夕日、ちょっと離れた右手には小さな富士山も望めて、帰り道は暮れなずむ西の空の低いところに薄い月が見え隠れするのをずっと横目で追って。ささやかだけど贅沢な年始の休日でした。これからもこんな風にずっと過ごせたらいいのにな。

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