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「ジョハリの窓」を用いて問いのスタンスを考えてみた

「明日の待ち合わせは10:00だよね?」
「今日の朝ごはんは何食べた?」
「なぜ月は満ち欠けするの?」
「3年後、どんな変化が起こっているだろうか?」

……これは、観点の異なる質問の種類を4つの例で表してみました。それぞれ順番に「確認」「情報収集」「発問」「問い」と分類できます。

自己理解や人間関係のテーマで用いられることの多い「ジョハリの窓」を用いて、質問の観点や問いのスタンスを考えてみたいと思います。

自社サービスに誘導しようとして気づいた「問いのスタンス」

私は現在、「クエスチョンサークル」という会社で、「質問」にフォーカスした組織開発の仕事をしています。

いま振り返ると、そもそも「質問」が持つ可能性を感じたきっかけは、かつて研修会社で営業していた頃の原体験にあったと思っています。

当時の私は、「問いの100本ノック」というのをやっていて、顧客にたくさんの質問を投げかけていました。

それをやり始めた頃は、それまでの売り込み型の営業から、ヒアリング型の営業に変わったことで、自分の新たな営業スタイルに手応えを感じていました。しかし、そのやり方に慣れてくると、むしろ上手くいかなくなる場面も出てきました。

営業ですから、顧客が抱える課題をヒアリングし、それに対する解決策を提案するのが自身の役割です。すると、どうしても自社のサービスに誘導したくなってしまうのです。

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その流れが変わったのは、解決策として自社サービスを提案するのではなく、ともに「本質的な問題」の発見に至ったときでした。

ある時、顧客に質問を重ねていくと、当初テーマとなっていた「マネジメントの強化」という課題から、「採用においてミスマッチが起きている」という本質的な問題の発見に至ったのです。その後は、その本質的な問題を解決するための「リクルーター研修」という解決策が動き出しました。

顧客が抱える課題をただ解決しようとすると、私からの提案内容は、顧客にとって手段の選択になってしまいます。しかし、顧客と共に本質的な問題を発見し、顧客と共通の目的が共有できると、その解決手段は唯一無二となります。

つまり、大切になるのは「問題解決」ではなく「問題発見」のスタンス。

「質問」は、自社のサービスに誘導するための道具ではなく、顧客が本質的な問題に気づくために用いるのがよいと実感した体験でした。

「ジョハリの窓」と質問の観点

心理学で有名なフレームワークの1つ「ジョハリの窓」をご存知でしょうか?
自己理解や人間関係のテーマで用いられることの多い、教育研修ではよく用いられるフレームワークですが、前述の営業体験を通じて、「ジョハリの窓」と質問の観点が繋がりました。

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上図のように、ジョハリの窓は、質問者と回答者がそれぞれ知っていること/知らないことで、4つの窓に分けられます。

①開放の窓
→本人も相手も知っている自分
例)本人も周囲も知っている性格や特徴など

②秘密の窓

→本人だけが知っている自分
例)本人しか知らないプライベートな一面など

③盲点の窓

→本人は知らないが、相手は知っている自分
例)本人は気づいていないが、周囲には見えている長所や短所など

④未知の窓

→本人も相手も知らない自分
例)新たに開発される可能性がある才能など

この4つの窓に、それぞれに質問を投げかけることができます。

開放の窓には、確認の質問ができます。例えば、「明日の待ち合わせは10:00だよね?」とお互い知っていることですが、「確認」のための質問です。

秘密の窓には、情報収集の質問ができます。例えば、「今日の朝ごはんは何食べた?」といった質問はこれにあたります。本人は自分のことなので当然知っていますが、相手は知りません。そのための「情報収集」です。

続いて、盲点の窓に対応するのは、気づかせる質問です。相手には見えているものの、本人には見えていないことを引き出します。例えば、営業部のメンバーに対して、「その受注によって、製造部にはどのような影響があると思いますか?」という質問によって、営業メンバーはそれまで見えていなかった製造部のことを考えるきっかけが得られます。

ちなみにこの気づかせる質問は、教育の世界では「発問」と言われます。例えば、先生が生徒に「なぜ月は満ち欠けするの?」という質問は、既に答えは先生の中にありますが、考えさせるために生徒に質問しています。

最後に、未知の窓に対応するのが、協働的な質問です。これは、本人も相手も分かっていないことを共に探求するような問いかけで、私は「問い」と呼んでいます。「3年後、どんな変化が起こっているだろうか?」といった問いかけが、協働的な質問(問い)です。

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このように、質問は大きく「確認」、「(質問者のための)情報収集」、「(回答者のための)発問」、「(お互いのための)問い」という4つの種類に分類できます。

注意すべきは、「誘導尋問」と「情報収集」

これらの観点で質問を捉えてみたとき、一見、重要に思えるのが右上の「発問(気づかせる質問)」です。

実際、職場でも部下や後輩に対して「なぜその問題が発生したんだと思う?」と質問の形で、やや強引に気づかせようとしてしまうことは多くあります。

これは質問の形を用いてはいるものの、既に答えは質問している側にあって、最後の落としどころが決まっている。そのため、誘導尋問になりやすいのです。

もちろん、ティーチングの観点から気づかせる質問が有効なケースもあります。しかし、上司が部下に対して「自分の答え」に誘導するような質問を続けていては、メンバーは自ら考えて行動できるようになりません。

更にエスカレートすれば、常に上司の顔色をうかがい、「上司の中」に答えを探すようになります。しかし、メンバーが自走するためには「自分の中」に答えを探せるようになることが大切です。

また、ジョハリの窓で左下にあたる「情報収集」にも注意が必要です。何かの問題が起きた時に、「いつからその問題が起こったのか?」「どこにその影響が出ているのか?」など、上司である自分が問題解決するための情報収集になってしまっていることが多くあります。

メンバー自身が問題解決できるようにしたいのであれば、「問題」に対する情報収集は適度に、本人に考える機会を提供するような質問が必要となります。

「協働的な問いかけ」が自走を促す

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ジョハリの窓を用いてあれこれ持論を語りましたが、結論として伝えたいのは、ジョハリの窓で右下にあたる「協働的な質問(問い)」が有効であるということです。

私はよく「与えられた学びは行動に変わらない」と言っています。
その点、質問は思考を促す有効な武器ですが、これは質問によって「気づかせる」ことが重要というわけではありません。質問による本人の内省をきっかけに、「自ら気づく」ことで行動に変わりやすくなるからです。

とはいえ、上司の側にも「自分が全ての答えを持っていなくてはならない」という思い込みがあるかもしれません。私も以前勤めていた会社で、初めてマネジャーという立場になったとき、この呪縛にかなり苦しみました。メンバーに相談されたら、気の利いたアドバイスを的確にせねばならない、そう思っていました。

しかし、上司は必ずしも答えを持っている必要はありません。むしろ、「本人の中に答えがある」と思って、一緒に探すスタンスが大事だと思っています。

上司の答えを押し付けるのではなく、メンバーに考える機会を提供し、本人が自分の中から答えを探せるような問いかけをしてあげること。それが自走する組織を作っていくのだと、私は考えています。

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