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3月のイタリア、続コロナウイルス1

今、読み返してみても、怖かった日々が鮮明に蘇る。映画の中だけの出来事と思っていた感染症のせいで全く外出できない日々とか、人と触れ合えない生活とか、知っている人が、自分が、急にいなくなってしまうかもしれないという恐怖とか。外出禁止を破ったら刑罰、という、普通なら疑問を持つような政府の規制にも黙って従っていた自分や、イタリアの人々がいた。

3月19日(木曜日)

バルコニーに出てみんなでイタリア国歌を歌ったり、思い思いのパフォーマンスをして(中にはプロのオペラ歌手なども!)、外出できない鬱憤や、コロナウィルスの恐怖を跳ね飛ばそうというフラッシュモブの流れ。

#restaacasa (resta a casa) =家にいなさい
# stoacasa(sto a casa)=私は家にいる
#andratuttobene (andrà' tutto bene)=きっとすべてうまくいくよ

こんなハッシュタグのついた画像や動画がSNSに溢れかえった。(その後、ロックダウンや外出自粛の流れが世界に広がり、英語でのStay homeが定着することになる)。イタリア全国民が団結して戦っているような、ちょっと盛り上がった気分が蔓延していた。

消えたフラッシュモブ

ところが、昨夜流れた、ロンバルディア州ベルガモのニュース。遺体を埋葬するスペースがなくて、軍のトラックが別の地域へ移送しているという映像は、そんな、ほんの少しだけ浮ついた気分に、冷水を浴びせかけた。

そして今夜18時、コロナウィルスによる今日の新たな死亡者数427人というイタリア市民保護局の発表。合計3.405人。中国の数字を抜いてしまった。感染者総数は33.190人。

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↑3月19日[Il fatto quotidiano]の記事 https://www.ilfattoquotidiano.it/2020/03/19/coronavirus-litalia-supera-la-cina-per-numero-di-vittime-3405-oltre-41mila-i-contagiati-le-vittime-sono-3405-superata-la-cina/5742575/

ロンバルディア州の一番大変な地域の人々から、歌うのは勝手だけれど、私たちがどんな状況にいるのか想像して欲しいというメッセージや、亡くなっていく人々とその家族への追悼とリスペクトから、お祭り騒ぎはやめようという声が上がり始める。

そしてフラッシュモブは姿を消した。

3月20日(金曜日)

犬の散歩は許されているから、朝、グレースを連れて近くの大きな公園に行くと、偶然、犬友達のティツィアーナに会えた。彼女は大の日本びいきで、
飼い犬は秋田犬のメス、さゆりさん。久しぶりに会った仲良しのグレースとさゆりは、嬉しそうに身体をぶつけ合って走り回るが、私たち人間は2メートルほど離れ、自治体警察の見回り車が回ってこないか、ドキドキしながら歩く。そういえば、最近、犬を捨てる人が増えているという。

ペットにも感染の危険があるというニュースが流れたせいなんだけど、全くひどい人がいるもんだ。明確なエビデンスはないので捨てないように! という市民保護局の声明が先日出たばかりだ。

↓グレース(右)とさゆりは幸せだね。

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若くて健康でも

15日もの間、集中治療室で人工呼吸器に繋がれていたティツィアーナの義理兄が、やっと回復の兆しを見せているという。それにしても15日って本当に長い。義理兄は49歳。若くても糖尿病や呼吸疾患がある人が感染すると
重症化するというので、彼は既往症があったの? と聞くと

「Sanissimo!(健康そのものよ)」という答え。治療薬がないので、対処療法をして身体がウィルスに打ち勝つのを待つしかないから、とても時間がかかるんだとティツィアーナ。その間、面会ができないだけでなく、1日一回、病棟スタッフからの電話連絡も、日に日に途絶えがちになったのだそう。重症患者の処置に追われて、電話対応をする余裕がないのだろう。彼の妻も、年老いた両親も、ただ家で心配して待つしかできない、電話の音に怯える日々を送っていたそうだ。

そういえば昨日、ベルガモで97歳の男性が回復したというニュースもあった。明るい話題と、公園を散歩して上向きになっていた気分は、けれどまたもや18時のニュースで打ち砕かれた。今日1日で627人の死者。なんなの、この数字は??

3月21日(土曜日)

医療スタッフが足りなくて、国家試験を受ける前の医学生も緊急採用したり、イタリア全土の、まだ余裕がある州から感染拡大が激しいロンバルディア州に医師が集まってきているという。コロナウィルス感染者以外の病人、怪我人だって病院にはやってくる。猫の手も借りたいとは、本当にこういう状態を言うのだろう。

昨日のニュースでは、引退した73歳の医師が一線に復帰した結果自身も感染し、そして亡くなってしまったという辛いニュースも。

ヴァッレ・ダオスタ州(州都・アオスタ)では、医療スタッフの防護服が足りなくて、ビニールのゴミ袋を被って働いているそうだ。あの2月22日から25日のスキーバカンス週間に、私たち家族も行っていたアオスタのスキー場にはたくさんのロンバルディア州人も来ていたけど、いつも行く宿のおじさんは無事で、元気にしているだろうか?

娘の幼馴染のお父さんは、トリノ市内の大きな病院の内科部長で、偉ぶらず、有能で、医者としても友達としても、とても素晴らしい人。その彼も、家族に感染させる危険があるから、もう1週間以上、自宅には帰って来られないそうだ。

それにしても、これほど大変なことになっているのに、自分には関係ないとか、市民の自由侵害だなんて言って不用な外出をしたり、集まったりしている人がいまだに絶えないらしい。体制に無条件に従うのではなく疑問を持つことは必要だし、反対する若者はいつの時代でもいるものだけど、外出できずに退屈だからって、1日に何回もスーパーに買い物へ出かけていく大人気ない人が大勢いるという。必要なものを小分けにして何度も買い物に行くんだって。
3日前の記事で、不要に外出していると罰金などを受けた人53.000人。昨日だけで新たに11.000人。(罰金といってもお金を払って帳消しになる駐車違反のような刑とは違い、人の命を危険にさらした罪として犯罪記録が残る罰金刑)。

ローマではついに軍が出動し、人々の動きを監視することになったという嫌な話。また別のところでは、ドローンで人を監視するとか、効果的に感染拡大を抑えられた韓国方式を取り入れ、陽性者をGPSやクレジットカードの利用履歴などから徹底的に追跡するなどのニュースが飛び交っている。

そしてついに、公園は禁止、ジョギングも禁止。犬の散歩は自宅から200メートル半径内ですること、となる。これらはすべて、陽性でも無症状の人が
感染力を持っているから、気づかないうちに感染を広げてしまう、それを防ぐため。

18時を過ぎて、今日の感染状況が発表される時間になった。見たくない、怖いなあ、と思って躊躇していたらスマホのニュースアプリが鳴ってしまった。

今日1日の感染者数4821人、死亡者数 793人。トータル感染者数42.681人、死亡者数4.825人、回復者数 6.072人。

RESTIAMO A CASA(家にいましょう)

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