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温暖化のせいで、白トリュフはますます高嶺の花になっている

数日前から急に気温が下がり、今朝のグレース散歩では手袋したいなあ、
と思うような寒さがやってきた。

私が暮らす北イタリアのトリノでは、例年、というか温暖化現象が目立つようになる以前は、大きなアパート(日本で言うマンション的な集合住宅)であれば、10月15日から4月15日の期間はセントラルヒーティングが一斉に入る、というのが決まりだった(一軒家などは各自が勝手に判断する)。

ところが今年は、ガス、電気代金の異様な高騰と、いつまでも寒くならない秋が続いたから、10月後半になっても暖房はつけないよ、という状態が続いていた。暖房はガスによる温水ヒーターが主流のイタリアでは、寒くならなくてよかった、よかった、と誰もが思いながらも、一方でこんなに寒くならない異常気象に心配を募らせていた。

トリノの街中には、バロック様式のこんなアパートが建ち並ぶ。

だから寒いのは嫌だけど、寒くならなきゃおかしかったんだよと、やってきた寒さにみんなが少し安堵している。そして私は、寒くて、どよーんと霧が澱む、いかにもピエモンテの晩秋らしい朝、あることを思ってニヤニヤしていた。

白トリュフが美味しくなるね。

白トリュフとは皆さんご存じ、トリュフの一種で、私の住むピエモンテ州で採れるものが最高品質として世界に知られている。トリュフについてちょっと詳しく東洋経済オンラインに記事を書きました。

そしてニューズウィーク日本版World Voiceでは、ピエモンテに住み、日本人で唯一、トリュフをとってよい公式ライセンスを持つ富松さんの裏話なども書いてます。


さて、白トリュフは9月末から12月いっぱいが主な収穫期だけど、例年、10月はあまり収量が安定しないから値段がめちゃくちゃ高い(100gで600ユーロとか! 100gってじゃがいも一個ぐらいの大きさよ!)、その上、最大の特徴である香りも弱いから、そういうのは走りのものが好きなお金持に任せておいて、私は機が熟す年末近くを毎年待ってから食べることにしていた。

なのに今年は11月に入っても一向に寒くならなくて、大丈夫なの??と焦っていたところ、やっと寒さがやってきたというわけだ。

こんなジャガイモみたいなのが、 森のダイアモンドとも呼ばれる白トリュフ。

ところが寒くなったからといって収量が急に増えるわけでも、質が良くなるわけでもないらしい。記録的な高値は更新中で、今日も近所のグルメなおじさんと立ち話をしていたら、

100g700ユーロもするんだよ! その上、香りも薄いから買うのをやめたよ、とため息をついていた。
トリノの食いしん坊なら、白トリュフを買ってきて家でパスタや卵料理に削って食べるのは季節の行事と言ってもいい。一人10gもあれば十分過ぎるほどだから、家族や友人と楽しむとして50g。それでも350ユーロ(今の円安で換算したら5万円ぐらい?)もするのはちょっとトゥーマッチじゃないの。普通なら、年末近くになれば100g200~250ユーロぐらい、つまり50gなら100ユーロ前後で買うことができるようになるというのに。


←トリュフの本場、アルバのカジュアルレストランで食べた、
カルドという野菜にフォンデュソース、 そして白トリュフがかかった一皿。

やっぱり白トリュフが美味しくなるための、正しい季節の移り変わりが必要なんだと思う。つまり昼間は暑いけど夜は比較的涼しい夏や、シトシトと続く秋の長雨などがあって初めて、世界の人が恋する美味しいピエモンテ産白トリュフが地中で育つのだ。

だけど全く雨の降らない灼熱のアフリカみたいな夏や、全然寒くない北イタリアの秋なんていう異常気象が続くなら、そのうち白トリュフはイギリスとかもっと寒い地域が産地になり、北イタリアのピエモンテではアボカドやパイナップルなどトロピカルフルーツが採れるようになり、そしてシチリアは砂漠になる、なんていう嫌な予想も耳に入ってくる。

私の知り合いのトリュフハンターは、いつかトリュフが採れなくなるかもしれないという未来を見越して、サフランの栽培を始めたなんて言っている。サフランは本来はイランやモロッコなどイタリアよりももっと暖かい国で生産されるものなのにね。

←10月にモロッコで訪ねたサフラン生産者の畑。 赤いめしべの部分が、
いわゆるサフランとして 使われる。

地球温暖化の問題はこんなふうに、白トリュフや、そして全ての食文化にも大きく影響を与えながらどんどん進行している。




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