見出し画像

イタリアで起きている異常旱魃、そして「テーラ・マードレ2022」

「世界で排出されるCO2の34%は食の生産から生まれ、そうして作られる食糧の33%が廃棄されているんだ。その33%を生産するのに、一体どれだけの水を使ったと思う?」

今、ものすごい深刻な旱魃に見舞われている北イタリアの状況を踏まえて、スローフード協会設立者のカルロ・ペトリーニ氏が放った言葉だ。数年前、一般人として世界で初めてヴァチカンに招聘され、教皇に環境問題についてのアドバイスを求められたという人の言葉は、さすがに説得力がある。

Carlo Petriniさん。Slow Food International提供

テーラマードレの発表会で

先日の6月23日、ピエモンテ州を本拠地とするスローフード協会が2年に一度開催する世界的な食のイベント「Terra Madre テーラ・マードレ」と「Salone del Gustoサローネ・デル・グースト」の開催発表会があったので行ってきた。その発表会で、現在名誉会長をつとめるペトリーニ氏が、今の食の生産システムはおかしいんだ、変えていかなければ本当に大変なことになる、そう訴えたというわけだ。

今年で14回目になるこのイベントは、「伝統的な、正しくておいしい食」を守っていこう、広めていこうということで、世界から集まってくる600を超える生産者の美味しくて珍しい食品のマーケットで試食して歩いたり、有名シェフの食事会や食のワークショップでちょっとお勉強したりできる、楽しいイベントだ。最近のエディションでは、食をめぐる環境問題について追求し、解決策をみんなで考えよう的な内容のイベントも増えている。しかも以前は入場券が結構なお値段だったのが、今回は無料参加できるようになったから食べること、おいしいもの、そして地球環境に興味のある人には、なかなか面白いイベントだと思う。(各イベントは、有料のものも多い)

イタリアの異常旱魃

イタリアで、特に北部で、旱魃がとてもとても深刻な状態になっている。
水不足、というのは夏に時々あることだけど、今回のは水不足、なんていう生ぬるい言葉で表せるようなものじゃない、そんな感じがしている。

6ヶ月ほど、ほとんど雨が降っていない。私が住むピエモンテ州から生まれ、ヴェネチアまで650kmを流れるイタリア最長の川、ポー川も干上がりかけている。ポー川はトリノにとって、ロンドンのテームズ川、パリのセーヌ川のような街のシンボル的存在なのに。私は毎朝、グレースと一緒にポー川沿いの公園を散歩するのだけれど、川底が剥き出しになって見えているところ、地上に出てしまった川底に、海藻ではなくて草がボサボサに生えて野原みたいになってしまっている場所が、あちこちに見える。

手前や向こう岸の方に見えている地面は、本来は水中の部分。雨が全く降らないから土手の草も茶色く枯れてしまっている。でもこれはまだマシな方で、ひどいところではカサカサにひび割れた川底の映像がテレビなどから流れてくる。

川底が剥き出しになり、海水が逆流してしまったポー川


ポー川はピエモンテ州(州都・トリノ)からお隣のロンバルディア州(州都・ミラノ)へ流れる途中、イタリア最大の米産地を潤したり、もっと東のエミリア・ロマーニャ州(州都・ボローニャ)やヴェネト州(州都・ヴェネチア)を通って、プロシュートやパルミジャーノチーズやらやらを生み出す、ヨーロッパ有数とも言われる農作地帯を豊かに育んでいる川だ。

散歩に行くポー川沿いの公園。2021年4月撮影。普段はこんなふうにたっぷりの水をたたえた美しい川なのに。

でも今、そのあたりの農家の人たちが悲鳴を上げている。ヴェネチアのあるアドリア海に注ぐはずが、水量が激減したせいで海水が川に逆流し、川の水の塩分濃度が高くなり過ぎているという。日本では台風で海水が農地に浸水して、農作物を枯らしてしまうなんていう被害があるようだけど、台風のないイタリアで今、そんな異常事態が起きているというわけだ。

観光地として人気のあるマッジョーレ湖なども水位がぐっと下がり、普通は水があるところがビーチになってしまって、人々が日光浴できるスペースが増えたという皮肉なニュースも。

冬の間に雪も降らなかった。北イタリアはヨーロッパアルプスの麓の地域だから、どの州にもスキー場がたくさんあって、普通なら冬には雪がたくさん降る。その雪解け水も今年はない。私のトリノの自宅からは車で2時間も行けば、マッターホルンの麓やモンブランの麓でスキーが楽しめるのだけど、どちらの山でも数年前から急激に氷河が溶け始めていて、それも心配されている。

ミラノは非常事態宣言

旱魃の状況がよりキツイ北イタリアのロンバルディア州では、非常事態宣言が出され、6月27日からは観光地の噴水がストップされるなど水の使用に制限がかかる。庭の花や植木に水をやるのも、畑に水を撒くのも禁止だとか。

トリノではまだ規制はかかっていないけど、私は各水道の下にボウルなどを置き、ちょっと手を洗うだけとか、野菜を洗うなど石鹸や洗剤を使わない時の水を溜めておいて庭や植木にまいている。やってみると、まきすぎ?と心配になるほどたくさん溜まる。つまり今までどれだけ、水の無駄遣いをしてきたのかということだ。

トリノのカステッロ広場。夏になると地面から水が噴き出す仕組みになっていて、涼しげな演出。これも規制がかかってしまうだろうか?

気がつかないふり、見えないふりは
もうやめにしなきゃヤバい

地球の温暖化がやばい、あと10年以内になんとかしないと、と言われながら、ほとんどの人はなんとなく、ちょっとエコしてみたり、ちょっとサステナについて考えてみたりしながら、でも本質的には今まで通りに暮らしてきたと思う。私もそんな1人だ。だけど今年のこの旱魃は、もういい加減目を覚ませ、このままでは恐ろしい未来しかやってこないよ、とほっぺたを張られたような、そんな怖さがある気がしている。

「この旱魃は、今だけのことじゃない。これからどんどんひどくなっていくだろう。今後数年間で、草木一本生えない土地が、世界のあちこちで出てくるだろう。気がつかないふりは、もうやめようじゃないか」。

72歳になり引退も囁かれるペトリーニ爺だが、愚かな人類が引き起こした惨禍を少しでもなんとかしたいという気迫が漲っていた。若い私たちも、もっと見習って考えなければいけない。自分達がこれからも暮らしていかなきゃいけない、一つしかない地球のことを真剣に。


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
ピエモンテのしあわせマダミン

サポートいただけたら嬉しいです!いただいたサポートで、ますます美味しくて楽しくて、みなさんのお役に立てるイタリアの話を追いかけます。