3月のイタリア、続コロナウイルス2

3月の終わり、コロナ第一波がイタリアを吹き荒れていた時、私はこんなことを書いていた。「ミラノで、ヴェネツィアで、ローマで、まるで映画の撮影のために、人を退けて撮影したかのような映像をあちこちで見る。もちろん私の暮らすトリノも。この美しい国を、神様は一体どうしようとしているんだろう。日頃宗教心のかけらもない私が、柄にもなく思う」。誰も歩いていない、静まり返った街をラブラドールのグレースと散歩していると、怖さと悲しさで、本当にそう思っていたのだ。

3月22日(日曜日)

先週の金曜日、ロックダウン状態になって初めて、近所のスーパーへ行った。食べ物の買い物は許可されていると言っても、
ー感染拡大防止のための措置について理解しています
ー感染していません
ー虚偽の申告をしたり、違反した場合は罰金等の罪に問われるのを理解しています

と書かれた政府発行の自己申告用紙(これは各市町村HPや新聞のオンライン記事に添付されているものをダウンロードしプリントアウトする。プリンターやパソコンがない人は、同じ内容を手書きで書き写す。スマホで写メるは不可)

これに住所氏名などと外出理由を書き入れたものを携帯していないと、万が一、コントロールしている警察に止められた場合、最高206ユーロの罰金、または逮捕となるので大変だ。

スーパーの行列や消毒液の売り切れ

でもこんなに厳しいのも、感染を広めないため。自分が感染して無症状で、
気づかずに誰かに移してしまわないためだからしかたない。イタリア人はせっかちなので、朝は開店と同時にスーパーが混むのでは?とよんだ私は、午後3時、ランチタイムが終わったあたりを狙って行ったら、外には入店を待つ人の列は10人もいない。入店制限をしていて、あちこちですごい行列ができていると聞いていたので、ラッキーだ。

暇つぶしに何度もスーパーへ行く人がいるというが、私は不要に外出してうつりたくないから、買い忘れがないよう、リストを見ながら急いで買い物をする。ロックダウンが起きた当初は、スーパーの棚がガラガラになったという話もあちこちで聞いたけれど、すぐに回復して、野菜も肉も魚も、ちゃんとある。ただ、消毒関係のもの全般、手湿疹がひどい私がいつも料理する時に使う使い捨ての手袋は売り切れ。たまたまとは思えない。

画像1

でも、消毒液にしても、マスクにしても、もうあまり出かけないから、さほど必要もない。ロックダウンになる前、日本人の私は早速マスクをして出かけたりしたこともあったけど、その頃はまだ、トリノの人は誰もしていなかった。今はスーパーなどに入れば、店内にいる人は全員マスク。

スーパーの後に寄った薬局では、カウンター上にガラスの仕切りがつけてあって(駅のチケットカウンターみたいな感じ?)薬剤師に感染の危険が及ばないようにされていた。

有名シェフの料理動画でステイホーム

みんな家にこもっていて時間がたっぷりあるから、お菓子や手打ちパスタを作ったりして、SNSに投稿している。ミシュランのスターシェフたちは、インスタなどに家庭料理のレッスン動画をあげていてくれたりして、料理好きも、それほどでもない人も、それなりに楽しんでいる。

↓私も、世界最高峰シェフ、マッシモ・ボットゥーラシェフのインスタ動画を見て作ってみた。たっぷり野菜とレンズ豆のスープ。簡単でおいしい。体が温まって免疫力も上がりそう

画像2

食べる心配はないけれど、外出ができないから太ったり、運動不足になって健康を害さないように気をつけないといけない。うっかり具合が悪くなっても、院内感染が多いという今、病院には絶対行きたくない。(イタリアはホームドクター制で医療は基本無料。そのせいもあって、ホームドクターも、その先の専門医も、予約を取るのにとても時間がかかる。手が足りない今はもっと待たされるだろうと思う)

スポーツ選手たちの悲哀

運動不足といえば、フランスではプロのマラソンランナーが、長さ7メートル幅1メートルの自宅のバルコニーを6000回往復して、42,195キロを完走したとか、イタリアが誇る女子水泳の金メダリスト、フェデリーカ・ペッレグリーニが自宅のベッドの上に水着姿でダイブして、バタバタ泳いでいる
動画を投稿していたり。笑い事じゃないけど、笑うしかない。プロも、アマチュアも、常に運動している人たちにとっては深刻な問題だよね。

夕方6時過ぎ、毎日の感染状況の発表を恐る恐る見る。金曜日に中国の死者数を抜いたかと思うと、昨日の土曜日には死亡者数が800人近くにも登っていた。1000人台に乗っていたらどうしよう???という思いで見ると、651人。合計5,476人。

悲しいのは同じだけど、心が少し軽くなる。ただし明日、月曜日の状況を見るまでは減少傾向にあるというのは早急である、と市民保護局長のアンジェロ・ボレッリさん。2週間以上休むことなく戦い続けてくれている人がここにもいる。

頑張ってくれているのは医療従事者だけじゃない

休みなく戦っている人たちといえば、医師や看護師の人たちはもちろん、
スーパーマーケットなど食料品店で働いて、私たちの命を繋いでくれている人たちがいる。なるべく人と接触するなと言われる中で、マスクをしながらも、不安はいっぱいだろう。どこかの州で、スーパーのレジの人が亡くなってしまったというニュースがあった。

3月23日(月曜日) 少し回復の兆し

夕方6時。なんと昨日よりさらに数字が減っている。トンネルの先の光かもしれない、という市民保護局長のコメント。テレビ番組も緊張の走った報道特別番組ばかりでなく、通常のバラエティー番組など(事前撮影されたものです、とのテロップ入り)も。

医療スタッフが足りないので、ボランティア医師の募集をかけたら募集300人のところ、新米医師から、なんと80歳の元医師まで、全イタリアから7900人もの応募があったというニュース。自分の危険も顧みずに困ってる人をみんなで救おうという熱いハート。私も、イタリア人じゃないけど、誇らしい気持ちになる。昨日のクロアチアの大地震のための救援部隊が、イタリアからも出ているという。

一方で、スペインは1週間前のイタリアと同じ状況と言われ、感染者数3万3千人、今日1日で亡くなった人の数462人。大女優のルチア・ボゼが亡くなったとか、テノール歌手のプラチド・ドミンゴが陽性というニュースも。高齢だから心配。テレビではマドリッドの病院のベッドが足りずに、廊下の床に寝かせられている患者さんの列を映している。もはやヨーロッパ全体が感染の渦の中。

3月24日(火曜日)

今日は何曜日だったっけ? どこにも行かないし、仕事のアポもないから曜日の感覚がない。

仕事が休みの夫が、グレースの散歩から帰ってくる。私を見たグレースは、いつものようにしっぽをぶんぶん振って突進してくる。抱きとめてグリグリ撫で回し、チュウをしようとしていると
「散歩で出会う人みんながグレースを撫でるよ、いつもよりもっと。だからキミ、そんなふうに触るの、大丈夫かな?」と夫。

そう思うなら、私じゃなくて、他人に撫でさせるのやめてくれよ! 慌てて口をゆすぎ、手を洗い、セーターを着替えるけど、脱ぎながら髪の毛に触らないか? ウィルスは舞い上がらないの?? などなど、心配が頭をぐるぐるよぎる。そういえば何日か前のテレビのトーク番組では、司会者とゲストが離れて座り、「もはや全ての人を疑ってかからないとダメ」と言っていた。戦争は知らないけど、戦時下ってこんな感じか。

画像3

日本の友人がたくさん、お見舞いのメールをくれる。ある友達が、チャットの流れで「ごめん、死の恐怖と直面しているあなたにこんなこと言って」と気を使う。

知らずに人を殺してしまうかもしれない恐怖

そうか、日本の人たちからは、そんなふうに見えるのかな。もちろん、それは事実ではあるけれど、毎日そんなふうに思って暮らしているかというと全然そんなことはなくて、それよりも、自分が自分勝手に出かけてうつって、
それをうかつに、スーパーのレジの人にうつして、その人は高齢のおじいさんと同居しているかもしれなくて、おじいさんに感染させて殺してしまうかもしれない、だから我慢して家にいる、そういうことだ。

イタリアは、私も含めて、ほとんどの人が最初、それがわかっていなかった。おそらく、世界中の人たちがわかっていない。わからなくて当たり前だ。新型なんだもの。ベルガモでは、両親をいっぺんにコロナウィルスに奪われた男性が

「父は、どこに埋葬されているのかもわからない」と言っていた。入院した時点から、お見舞いはもちろん、居場所も容態もわからなくなっていたと。

なぜイタリアは死者がこんなに多いのか?

それにしても、イタリアではなぜこんなに死者が多いんだろうという疑問は、感染騒ぎ初期から、頭の隅に淀んでいる。 

日本に次ぐ高齢者社会で、お年寄りを大事にする習慣がある。だから感染が広まったというのが今、もっとも言われている説。たしかに、うちの19歳になる娘も、おばあちゃんが大好きで、隣に住んでいる彼女を頻繁に訪ねて行っておやつを食べたり、そばで宿題をしたりしていた。去年、94歳で亡くなったのだけど、「ノンナ(おばあちゃん)、いなくてよかったね。安らかに逝けて」なんて言っている。

トリノのような大都市では、私の知る限り年老いた両親と同居をする人はあまりいない。大切にはするけれど、お互いのプライバシーを大事にしたいと言って別々に暮らし、必要なら掃除などの補助をしてくれる人を雇うか、自分が通うか。そして、ひんぱんにおじいちゃんおばあちゃんを訪ねて一緒に時を過ごす。週に一度とか、月二回とか。お盆と正月にしか顔を見せない、なんていうのはありえない。

そんな可愛らしい、愛情にあふれたイタリア人の習慣が裏目に出てしまったなんて、あまりに過酷だと思う。今朝のニュースでは、ロンバルディア州で暮らしていた孫が例の移動規制措置がとられる前に地元に帰り、老人ホームで暮らしているノンノ(おじいさん)を見舞った。孫は知らずにコロナウィルスをばらまいてしまい、今日、老人とスタッフ合計69人の感染者が見つかったという悲惨な話。

午後6時。本日の新規感染者の数は3.612人と3日続けて減少傾向、でも死者数は再び増加して743人。なんで? 昨日は601人だったのに。

アマゾン・ミュージックで80年代の音楽をかけ、陽気なつもりで夕食を作りながら、涙がでる。

看護師さんが自殺したという悲しいニュースが追い討ちをかける。

サポートいただけたら嬉しいです!いただいたサポートで、ますます美味しくて楽しくて、みなさんのお役に立てるイタリアの話を追いかけます。