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「高齢者福祉論 介護保険制度の理念・意義・課題」を読みました

なぜ読んだのか

仕事の理解のため。介護保険制度の歴史を知るため。

この本でわかること

  • なぜ介護保険制度が作られたのか

  • 介護保険が社会福祉制度に与えた影響について

  • 介護保険制度が20年でどういう改革をしていったか

  • この制度は持続可能か。これから何をしないといけないのか。

介護保険前史

  • 非常に貧しい時代には、生産に貢献できなくなった人をそのまま維持するだけの力はコミュニティにはなかった。

  • そういった人たちを捨てたり、排除するのではなくて、社会の中で保護をして、自立が失われることがないよう支援していくことに。

  • 1960年代は、年金もなかった。

  • 1970年代 老人医療費無料化・年金の給付水準の引き上げ

    • 物価が高くなるのに応じて給付額も上がった

    • 病院に行きたくても行けない高齢者が、病院に行けるようになった。

  • 65歳以上人口が7%を超えた社会を高齢化社会、14%を超えた社会を「高齢社会」を呼ぶ。日本は1994年に14%を超えた。

  • 7%から14%になるスピードが速いと、社会の意識、個人の意識、個人の生活設計、ライフプランもついていけないという大きな生活変化が起こる。

  • 日本の平均寿命はトップクラス。医療サービス、衛生環境、社会の豊かさなど申し分なし。人類が目指してきた豊かな社会が実現できている証である。また、平均寿命が伸びているということは、子供が死ななくなったということでもある。

  • 医療が発達して、死亡要因と介護の要因が異なっている。そのため、昔の介護と今の介護に必要なものが全く変わってきている。

  • そういった背景もあり、1980年代には、大量の高齢者の「社会的入院」が発生する。自宅で介護できない人が入院になって、医療が逼迫するという課題が出てきた。そうして80年代後半、ゴールドプランというものが作られる。消費税の財源を持って高齢者保険福祉サービスの基本を作ることになった。

  • サービスの主体は自治体へ移っていった。在宅介護支援センターなど、現在でいう地域包括支援センターのもとになるものが出来上がった。

高齢者の自立支援システムとは

1994年頃、政治界の若手が集まって、今後の福祉制度について議論していた。
国と自治体、経済界、労働界、医療界、福祉団体、市民団体、NPO、女性団体、民間の生命保険・損害保険会社、健保組合などの様々な団体と話し合って、介護保険を創設した。

措置から契約へ

従来の制度は、行政に申請し市町村がサービスを決めていた。そのため、医療と福祉は別々に申し込む必要があったし、所得がある人にとっては負担が重く利用しにくかった。また、競争や市場もないので、市町村や公的な団体からのサービスが多く、品質にばらつきがあった。

そうした問題を解決するために、介護保険制度に変わった。利用者は自らサービスの種類や事業者を選んで利用できる。所得に関わらず、1割の利用者負担となる。民間企業も参入し、多様な事業者によるサービスの提供が受けられるようになった。

自立とは何か

自立の前提は、「自己決定」である。自分のしたいことを実現するのに、他者の力を借りなければならないという状況は、そもそも尊厳を傷つける。

今までは、お嫁さんや子供が介護するというのが当たり前だった。しかしながら、それでは体力的にも精神的にも負担が大きいというのが現実だった。介護は社会化していった。

自立支援とは、できないことを補うことではなくて、その人の活動全体を見て、その人の自立度が高くなるように、何ができるかということを考えながらサポートするということ。

要介護認定について

要介護認定は、保険者が行うが、措置のような行政処分ではない。
その人がたとえば要介護度3という客観的な状態にあったら、その人にはサービスを受ける権利が発生している、というもの。

要介護認定とケアマネジメントというのは、介護保険で自立支援というのを実際のサービスを利用するという局面で、それを制度的に担保している大変重要な仕組み。日本の介護保険制度にはこういった仕組みがあり、それに基づいてサービスが提供されているということは非常に大きな特徴であり、先進性でもある。

ケアの哲学

介護保険の登場によって、高齢者のケアの考え方は「在宅」を重視するようになった。「あなたは要介護になったときどこで介護を受けたいか」というアンケートでは、3人に1人が自宅で受けたいと答える。リロケーションと言って、人間は馴染みのない知らない場所、土地に移ると、環境の変化に対応できなくなって心身に様々な悪影響が出る。そのため、できる限り在宅にし、「生活の中にケアがある」状態を目指す。

現在は、施設入所は最後の選択肢で、その前に色々な形でその人らしい生活を保証できるような住まいを保証し、そこに必要なサービスをつけていく。そういう形でサービスを伸ばしていくという流れになっている。

一言で認知症といっても、原因は様々。認知症の種類によってケアも変わる。昔は薬や抑制で対処することもあったが、それだと余計に症状を悪化させてしまうということで、ケアのやり方がとても見直された。

介護保険をめぐる論争

日本の介護は先進的だが、まだまだ課題も多い。
- 現金給付、介護手当について
- 家事援助はどこまでやるか
- 介護予防を行なっていく

介護保険の到達点

地域包括ケアとは、高齢者が地域で生活継続できるように、医療と介護を一体的に提供するというもの。

住まいがあって、生活支援のサービスがあって、そこに医療や介護、ヘルスが乗っている。それが本人・家族の選択と心構えの上に乗っかっている。

ケアマネジメントは、スポーツでいうとサッカーチームのようなもの。それぞれが自分の専門分野を持ちつつ、お互いに相手のことを信頼して、それぞれの判断でお互いにカバーし合う。

最近では、コンパクトシティを作る動きも出ており、30分圏内にいろんなものが用意されている街を整備する動きも出ている。

感想

自分が現役世代ということもあって、介護保険にはあまり良い印象がなかったのですが、介護保険の登場によってケアの哲学が良い方向に変わってきたというのは本当に驚きでした。

現役世代の負担増ばかりが注目されがちですが、誰しも老いて生産力も無くなっていく中で「その人の尊厳を守ろう」といろんな立場の方が一丸となって制度や運用を作り上げてきたことが伝わって胸が熱くなりました。

本の見た目に反してとても読みやすい文章で高齢者福祉の歴史、介護保険の歴史とこれからがわかります!現代社会を理解できる最高の1冊ですので、ぜひ読んでみてください!(リンクはアフィリエイトではありません。)


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