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マンションの専有部分をグループホーム(障害者施設)として使用する

大阪のマンション管理組合における裁判事例から思うこと

首都圏でも今後出てくる可能性がある『マンションの専有部分の使途』の解釈を巡る判例を、なるべくわかりやすくまとめました。マンション管理士としても管理会社の立場としても考えさせられる内容でした。
以下、あなたのマンションで同様のことが起こったと想像しながら読んでください。


① 大阪地裁判決(2022年1月)まとめ

■事案の概要
大阪市内にあるマンションが舞台です。このマンションでは、管理規約によって「1階は店舗、2階以上は住宅として使用する」ことが規定されています。

このマンションで、2階以上の複数の住戸を区分所有者から賃借した法人(社会福祉法人)が、その部屋をグループホームとして運営していました。
※グループホームとは、知的障害者や精神障害者、認知症を患う高齢者の方々が運営者側スタッフのサポートを受けながら、少人数で共同生活するための施設を言います。

これに対して、管理組合側がグループホーム運営側である社会福祉法人に対し「専有部分をグループホームとして使用することの停止」を求めて、裁判に発展した事例です。

■大阪地裁がグループホーム使用を違法と判断した理由
大阪地裁は、マンションの専有部分をグループホームとして使用することは「管理規約に違反」し、区分所有法(いわゆる「マンション法」)に定めた「他の区分所有者の共同の利益に反する」という判断のもと、管理組合の主張を認めました。

この「管理規約に違反」とは、このマンションでは、2階以上の専有部分を「住宅として使用すること」と定められていいて、実態としては「知的障害者が『住宅』として使用」しているが、その前に「グループホームが『ビジネス』として部屋を使用し運営している」点がルール違反としたのです。

また、専有部分を「住宅」ではなく「グループホーム」として使用することで、マンションが『生活弱者が利用する施設』と認定されることで、消防法の規制が厳しくなり、管理組合の業務が増加するなどの影響を与えたり、消防設備を付加しなければならずコスト増になる点も焦点となりました。

大阪地裁はこれらの理由のもと、専有部分のグループホームとしての使用は管理規約違反であるとしました。
(消防法の詳細は割愛します)

そして、管理規約に違反したグループホームの使用が、マンション法における「建物の管理や使用に関して区分所有者の共同の利益に反する行為(禁止事項)に該当すると判断しました。

② 上記①判決を受けてのグループホーム側の声明(2022年2月)まとめ

■グループホーム運営側の主張は
大阪地裁の判決に対して、グループホーム側が以下のような声明を発表し、控訴しました。
以下は声明をChatGPTに要約させ、僕がさらにわかりやすく加筆修正したものです。

大阪地裁のグループホーム利用に関する判決についての声明(2022年2月21日)
■判決の概要:(略)
■実際の状況:(略)
■声明まとめ:
・すでに10年以上穏やかに生活してきたグループホームの住民を排除するのは不合理であり、共生社会の実現に逆行する。
・グループホームは障害者の地域生活に不可欠である。
・今回の大阪地裁の判決を不服として控訴しても、高裁での判決次第では、入居する障害者が長年住み慣れた住居(今のマンション)を失う可能性が高い。
・今回の判決が(日本全国)他のグループホームの運営に悪影響を及ぼすことを懸念する。
■グループホームへの反対運動の背景:
・地域住民の偏見や差別による反対運動が頻発。
・治安悪化や地価低下など、客観的な根拠のない理由による反対が多い。
・障害に対する理解不足が偏見の根源。
■協会(※)の立場:
・判決による偏見や差別の助長を強く懸念。
・障害者が地域で排除される事態を防ぐため、全力で取り組む。
・国民全体に自閉症スペクトラムの正しい理解を広め、偏見や差別のない社会を目指す。

(※)日本自閉症協会(と思われる)声明文から

③ グループホーム側が控訴した大阪高裁の和解(2024年7月)まとめ

■大阪高裁では、最終的に和解が成立しました。高裁は一審判決(地裁)と異なり「グループホームとして部屋を使用することは管理規約に反しない」との考えを示しました。
そして和解条項として、以下の点が盛り込まれました:

  1. グループホームは障害者の地域生活を支える住宅であることの確認

  2. 消防用設備の点検費用などは社会福祉法人側が負担すること

この和解により、このマンションでグループホームの運営が継続できることとなり、管理組合としては専有部分のグループホーム使用を受け入れることとなりました。

④裁判所の判断と管理組合の和解に敬意を評し、共存共栄の社会につなげたい

■健常者に偏見や差別の気持ちがもたげることはやむを得ない
僕の想像ですが、管理組合は当初、①の時点では「2階以上は住居以外で使用できないルールであること」や「消防法の規定」を表向きの理由とし、実際は②で記載した社会福祉法人声明にあるような「偏見」に起因する「恐怖感や嫌悪感」に起因して、グループホームとの共存を受け入れられなかったのではないでしょうか。

例えば、知的障害者が身近に住むことで、室内や共用部分で奇声を発したり自分たちに危害を加えるような予測不能な言動を取られるような危険性をイメージしたり、もっと純粋に「知らないことに対する無意識の差別」に基づく排除を目指した可能性も考えられます。

これは人間の最初の感情として、致し方ないと思います。僕も子供の頃、地元の街を奇声を発しながら歩くおじさんに恐怖を覚え、近づかないようにしていました。頭で考えるより先に身体が反応するのは仕方のないことです。

■裁判所による冷静な判断と管理組合の素晴らしい歩み寄りにより③の高裁で最終的に和解できた
③の高裁で最終的に和解できた(管理組合が上告しなかった)ということは、管理組合(つまり区分所有者たち)が、①から③の期間を通じて社会におけるグループホームの活動意義や障害者に対する偏見が解消または減少し、グループホーム側からの妥協案(消防法上の設備費用を負担)等があって、歩み寄ったのだと推察します。

なお、僕は正直なところグループホームの存在を詳しく知らず、この判例を通じて学び、社会福祉法人の「ハンデを背負った方々を支援するという崇高かつ大変な取り組み」に敬意を表します。
ただ、専有部分を賃借するときに管理組合へ「部屋はグループホームとして使用する」と申請せずに入居した可能性があることは付言しておきます。

いずれにしても、日本の人々が弱者に優しく、相互に気持ちよく共存共栄できる心豊かな社会を作り上げて行くことが重要だと思いますし、僕自身がマンション管理士としても、プロ理事長としても、管理会社の立場としても、心に留めて日々の実務に取り組みたいと思い直したところです。

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