K音のパラレルワールドがきらきら・NUMBER GIRL『透明少女』論:この歌詞がすごい!6曲目
(初出:旧ブログ2019/02/21)
疾走感とエッジの立ったギターサウンドで、NUMBER GIRLを伝説にした『透明少女』は子音による音の粒立て方でも他の追随を許さない部分がある。1連目だけでも<赤いキセツ>、<軋轢>、<加速>、<風景>、<記憶>、<変わる>、<気付いたら>、<赫い髪>、<ひかれ>、<うそっぽく>、<風>、<彼女>とカ音キ音を中心にK音が執拗なまでに繰り返される。Perfumeの考察の際、4連目にH音が連続しているのに注目したが、1連目に限らず<狂った街かど きらきら>など歌詞全体にK音で構成されている。カチコチとした固く、シャープな印象を与えるのは間違いなくこのK音の連続にあるだろう。
また表記ゆれも激しい。<赤い>/<赫い>、<キセツ>/<季節>、<俺>/<オレ>、<軋轢>/<アツレキ>など、音だけではわからない「歪さ」が<狂った>テイストを醸し出している。<記憶・妄想>とあるが、脳内でなにか、この夏の風景に<赤>と<赫>が異なるパラレルワールド的な想像が膨らんでしまっているのかもしれない。現に2連目の<気付いたら 俺は夏だった風景>と4連目のそれは、向井秀徳の歌唱が明らかに異なる(4連目のほうは「ギヅイタラ オレハ ナヅダッダフーケイ」というような、感情を詰め込んだシャウトである)。<赤いキセツ>=灼熱の太陽のメタファーともとれるし、「紅葉」すなわち夏の次である秋の象徴ともとれる。その圧倒的な存在が、<俺の前>にやってきて、<軋轢>、<加速>と「変化」していくこと<記憶・妄想>に刺激を与え、<俺>が<オレ>になる並行世界を生む。しかし対照的に<少女たち>は妄想に狂っていく<俺>/<オレ>とは対照的に<透きとおって見える>。<気づいた>=我に返った自分は、<夏だった風景>=<キセツ>/<季節>と表記ゆれしているのに対して、すべて統一されている「確固たる」<夏>という風景に狂乱と快感に酔っていたことを悟る。そしてその「酔い」も「女の子」も「夏」も全て<街の中へ消えてゆく>。
この曲がサマーソングとして根強い人気を誇るのは夏が始まったようにも終わったようにもとれるところだろう(先の<赤いキセツ>の解釈に代表されるように)。そもそもかなり散文的というか、ところどころ助詞をを飛ばしたり、文法がめちゃくちゃだったりする。でも<とにかく オレは なんとなく 夏だった!!>。夏の暑さは理屈じゃねえんだよ!とそんな気分にさせてくれる。<とにかく>とか<なんとなく>でも十二分に感情をストレートにぶつけられるすばらしい詞であり、曲である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?