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わすれられないおはなし

【ことのは100】20.想い人
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数字で人生が決まる世の中に
感情を運んでちゃ生きてけない
僕らそんなことばっかして
無駄だと呼ばれる時間を謳歌する

面倒くさいから知らないふり
傷つきたくないから見ないふり
そうやってため込んだ人生経験
いつか少年少女を殺すなんて知らずに

「生きればいいことがあるさ。」
「辛い人なんてどこにでもいるさ。」
僕が聞きたいのは
「今の感情に耐え切れない」

中学二年の男子生徒が自殺した
第三者委員会によるといじめらしい
「まだ先があるのに」「かわいそう」
そう言われた彼の気持ちはどこへいく?

夢ではリアルを忘れられて
そんな日々がずっと続けば良くて
「○○君は塾も通ってる」って
僕ではない誰かと比較する家族
「思春期だから仕方ないさ」って
保健室の先生が笑って
「不登校なんて逃げてるだけだろ」って
担任が笑う
じゃあ今に耐えられない僕は

死ぬしかないんだろ?

そうだよ
僕には何にもないさ
勉強も平均点以下で
スポーツなんてもってのほか
特別な才能なんてない
そんな僕を見て大切だと笑う大人を
信じられるわけない
信じたくもないさ

死んだら白装束を着て
関わったやつらすべてに傷をつける
「お前らのせいで死んだんだ」
そんな遺書を残して
海の中に飛び込んだ
腐敗がどんどん進んでく
かじられた僕の身体が
次行く先は病院だった

「目が覚めた? おはよう」
同年代くらいの少女が笑顔見せる
僕はとっさに枕を投げる
「お前なんかにわかるわけねぇだろ」
誰とも知らずに

それから彼女とともに過ごした
親とは一切しゃべらなかった
ぐしゃぐしゃにされた千羽鶴
彼女と一緒に燃やした

彼女はいつだって笑顔だった
「復讐だよ」と微笑んだ
その理由さえ知らずに
僕ら一緒に時を過ごした

幸せという形がどんなものか
僕にはまだわからない
それでも彼女がくれたあのあたたかいぬくもりは
きっと大切な感情なんだ

信じられないほど生きるのが嫌
そう彼女と僕は笑いあった
彼女は身体の隅々まであざだらけで
それでも僕に笑顔見せた

『中学二年の男子生徒が自殺未遂を図った
 第三者委員会はいじめだと公表した。』
そんなテレビの音声などいらない
僕は僕のままで生きていく

綺麗に終わる文章が一番好まれて
短く終わるセリフがやっぱり好きなんだよな
それでも僕の感情は
一言なんかじゃ表せない
そりゃそうだろ
感情は概念なんだからさ

「いじめっ子を恨んでいます
「家族は助けてくれなかった
「教師たちも見て見ぬふりで
「生きる希望なんてなかった
そんな風に言葉にできるなら
どれ程楽なんだろうって
僕は言葉にできない感情を
ずっと仕舞って生きていく

それでも彼女がくれたこの感情
どうしても彼女に伝えたくなって
もう少し頑張って言葉にしてみよう
そして一か月がたって
分厚い手紙を書き終えて
これで伝わるかな これでいいかな
そう思いながら彼女と共に過ごした
病院の屋上へ向かう

僕は本当に生きているのが嫌だった
それでも君に救われた気がした
だからもっとずっと一緒に居ようよ
彼女はきっと笑ってくれる
とびらをあけて彼女を探す

………嘘だろ。


数値で決まるこの世の中で
感情を表現しようとした僕は
きっと世界に嫌われた
彼女はそれに……耐えられなかった……

・・・・・・・・・ っっっ!!!!




言葉にできない感情が
すべてを飲み込んで朽ちていく
ただ一つ残った彼女は
乱雑に投げ捨てられたスリッパだけ

『家庭内暴力を受けていた中学二年の女子生徒が
 入院していた病院の屋上から飛び降りた。』


どうして


どうして僕らはいつもこんな風に
期待しては落ちていく?
涙さえあざ笑って僕はさけんだ

彼女がくれた感情が
いつまでも心に残ってる
それを振り払うことすら
できずにいる僕なのに
紙一枚で死亡する
そんな世の中に舌打ちする
夢の中では幸せにな
過ごしていたい気もする
僕らは世界に嫌われてしまった
一人取り残された僕に
残された選択肢は



「パパ、ねぇ、どうしてそんな悲しい顔してるの?」
 小学四年になった娘が飛びついた。
「今日はね、パパの想い人がいなくなった日なんだよ」
 オモイビト? と娘は首をかしげた。
「パパにはね、私より一番大切な人がいるのよー。ひどいよねー?」
 母親はそう愚痴るように言いながらも、顔は穏やかだった。
「えーひどい!」
 ママがかわいそう、と娘は続けた。
「あの人だけは、忘れられないんだ」
 父親は優しいような、悲しいような顔で笑った。
「その人がいたから、ママにも会えたんだよ」